神経

神経の概要

神経（しんけい、英: nerve）は、動物体内での情報の伝達に関与する重要な組織です。日本語における「神経」という用語は、杉田玄白らが1774年に解体新書の翻訳を行う際に、新しく造られた言葉です。この言葉は、神気（生命の気）と経脈（生理的な経路）を組み合わせたものとして生まれ、後に漢字圏でも広く使用されるようになりました。

構造と組織

神経は、全体の構造から見ると、中枢神経系と末梢神経系に分けることができます。中枢神経系は、体の正中部に集まっている神経組織を指し、一方、末梢神経系は、その外側に存在する神経繊維のことを指します。末梢神経は神経繊維束として明確に区別されるため、特にこの部分を「神経」と呼ぶことが多いのです。

神経細胞の核を含む部分は「核周部」と呼ばれ、ここでは小胞体やゴルジ体が存在し、タンパク質合成の中心でもあります。神経細胞は多くの突起を持ち、これらは情報を受け取る「樹状突起」と、情報を伝える「軸索」に大別されます。軸索の先端はシナプスを形成し、他の神経細胞や効果器官との情報のやりとりを行います。

また、神経細胞や軸索は単独で存在することは稀であり、多くは集団を形成しています。中枢神経系では、互いに機能を持った神経細胞が集まり「神経核」となり、末梢では「神経節」という集まりになります。さらに、哺乳類の脳表面には神経細胞が重なって層状を作り、灰白質を形成しています。

中枢と末梢において神経線維はまとまって走行することが一般的ですが、神経線維は直接接触するわけではありません。その代わりに、神経膠細胞によって支持や絶縁が施されています。有髄神経においては、シュワン細胞が神経の鞘を形成し、伝導速度を向上させる役割を果たしています。末梢神経が伸びたり変形したりする際の保護も、神経線維がコラーゲン線維に囲まれることで行われます。

研究の歴史

19世紀には、神経染色技術が全く効果がなく、研究者たちはその染色方法の発見を求めていました。神経の染色に初めて成功したのはイタリアのカミッロ・ゴルジで、1873年には硝酸銀による染色法を開発しました。この技術を利用してサンティアゴ・ラモン・イ・カハールがニューロンの発見に至りましたが、当時は神経が網目状に一体であるという「網状説」と、個々に独立したニューロンから成るという「ニューロン説」が対立していました。このニューロン説が正しいと証明されたのは、1955年に電子顕微鏡による観察からでした。

伝導と伝達

神経細胞内部での情報伝達は「伝導」と呼ばれ、電気的な刺激が軸索末端に達し、特定の物質を放出することで「伝達」が行われます。フランスのルイ＝アントワーヌ・ランヴィエは、軸索の髄鞘に切れ目があることを発見し、髄鞘が絶縁体として機能することを示しました。以降、カエルを用いた実験での田崎一二の研究により、跳躍伝導が初めて記録され、神経活動がナトリウム-カリウムの濃度勾配によって生じる活動電位にも繋がりました。

神経の分類

神経は構造的および機能的に分類され、例えば脳神経や脊髄神経といった具体的な部位での分類も行われます。さらに、運動神経と感覚神経に大別され、内臓に関連する神経は自律神経とみなされます。しかし、実際の神経は機能的に異なる神経が混在するため、分類には困難が伴います。

神経系の特性

神経伝達は、内分泌を通じた情報伝達に比べて、次の特徴があります。

- 作用が局所的で、目的の領域に微量の物質が効果を持つ
- シナプス間隙には伝達物質を分解する酵素が存在する
- 伝達速度が非常に速く、刺激を短期間で再度与えることが可能である

このことから、神経系が短時間での微細な調整を担っていることが理解できます。

脚注と参考文献

- 久野宗『ニューロンとは』, 岩波書店, 1998年.

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