骰子城の秘密

『骰子城の秘密』：シュールレアリスムの映像詩

1929年、マン・レイ監督によって生み出されたモノクロ無声映画『骰子城の秘密』(Les Mystères du Château de Dé)は、27分という監督作品中最長の尺で、シュールレアリスム的な世界観を展開する異色の作品です。パリの夜を舞台に、二人の旅人がサイコロを振ることで行動を決定し、地中海に面した謎めいた「骰子城」へと向かう物語が展開されます。

サイコロと運命、そして匿名性

映画は、薄布のマスクをつけた二人の男がカフェでサイコロを振るシーンから始まります。彼らの顔は隠され、サイコロの出目が彼らの運命、そして旅の行程を決定していくのです。この演出は、偶然性と運命の不可解さを視覚的に表現していると言えるでしょう。

マン・レイ自身も述べているように、出演者全員が絹のストッキングをかぶっていることで、匿名性と神秘性が強調されています。出演者は、出資者のノアイユ子爵夫妻とその親しい友人たち。マン・レイ自身、ジャック＝アンドレ・ボワファール、作曲家のジョルジュ・オリク、そしてボモン伯爵といった面々です。彼らの顔は全く見えません。 この演出は、物語のシュールレアリスム的な雰囲気をさらに強めていると言えるでしょう。

骰子城への旅と不可思議な出来事

サイコロの出目に導かれるように、二人はパリのカフェを出発し、フランスの田舎町を車で走り抜けます。そして辿り着いたのは、地中海沿岸の丘の上に建つ近代的な邸宅、骰子城です。しかし、そこは無人。邸宅の中には、ピカソやミロの作品など、様々な芸術作品が配置され、独特の空間が作り出されています。

その後、四人の闖入者が現れ、彼らもまたサイコロを振り、運命を委ねます。プールでの水泳や体操、女性の軽業といった、シュールで非現実的なシーンが続きます。限られた空間の中で展開される彼らの行動は、まるで夢遊病者の様で、観る者に不思議な感覚を与えます。

最後に、二人は邸宅の庭で気ままに遊び、そのまま映画は幕を閉じます。この唐突なエンディングも、作品全体に漂う謎めいた雰囲気を象徴しています。

復刻と音楽

無声映画である『骰子城の秘密』ですが、近年の復刻版では、マン・レイの個人的なレコード・コレクションから選ばれた音楽が加えられています。エリック・サティのジムノペディ組曲など、時代背景を反映した音楽が、映像と調和し、より深い魅力を与えています。フランス国立現代美術博物館によるレストア作業を経て、この作品は現代においても観る者を魅了し続けています。

まとめ

『骰子城の秘密』は、サイコロという偶然性の道具と、匿名性という演出によって、シュールレアリスム的な世界観を見事に表現した作品です。サイコロの出目に翻弄される登場人物たちの姿、そして不可思議な出来事の連続は、観る者に強い印象を残します。この作品は、マン・レイの才能と、シュールレアリスム運動の革新性を示す重要な作品として、これからも多くの人々に鑑賞されていくことでしょう。

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