ジャック＝アンドレ・ボワファール

ジャック＝アンドレ・ボワファール：シュルレアリスム写真の巨匠

1902年、パリ郊外に生まれたジャック＝アンドレ・ボワファールは、当初医学の道に進みましたが、アンドレ・ブルトンとの出会いをきっかけに、シュルレアリスム運動の中枢へと身を投じます。シュルレアリスムの代表的な宣言書である『シュルレアリスム宣言』にも署名しており、その運動に深く関わっていたことが分かります。

その後、1924年から1920年代後半にかけては、シュルレアリスム写真の巨匠として知られるマン・レイのアシスタントを務め、写真技術を磨き、シュルレアリスム的な表現方法を学びました。この経験は、ボワファールの後の作品に大きな影響を与えたことは間違いありません。

ボワファールの写真作品は、シュルレアリスム系の雑誌や、アンドレ・ブルトンの小説『ナジャ』(1928年刊行)などに掲載され、高い評価を受けました。彼の作品の特徴は、視点やスケールの巧みな操作にあります。明るく照らされた被写体を、暗い背景と対比させることで、現実離れした、夢のような雰囲気を作り出しています。被写体の配置や光の使い方は、見る者に独特の心理的効果を与え、シュルレアリスムの精神を見事に表現しています。

写真活動のみならず、彼は映画製作にも携わっており、多様な表現方法を模索する芸術家であったことが伺えます。1930年には、写真家エリ・ロタールと共同でパリに写真スタジオ「スタジオ・ユニ」を設立し、ロタールの写真表現にも影響を与えました。

1930年代後半からは、写真家としての活動から離れ、再び医学の道に戻り、放射線技師として活躍しました。この経歴からも、ボワファールが様々な分野に興味を持ち、積極的に挑戦する人物であったことが分かります。1961年、パリで死去しました。

日本における展覧会と作品

ボワファールの写真作品は、日本でも数々の展覧会で紹介されており、そのシュルレアリスム的表現は高い評価を得ています。代表的な展覧会には以下のようなものがあります。

「写真のエコール・ド・パリ」展 (1991-1992年): 目黒区美術館、三重県立美術館、北海道立近代美術館、河口湖美術館、静岡県立美術館、ひろしま美術館などで開催されたこの展覧会では、ボワファールの作品が複数点出品されました。出品作品には、ジョルジュ・バタイユ監修の雑誌『ドキュマン』のために撮影された写真や、アルベルト・ジャコメッティを被写体とした作品などが含まれています。これらの作品は、現代プリントとして、P. Gassmannによって制作されたものが多く、そのサイズも様々です。
横浜美術館コレクション展 第3期 (2004年): 「シュルレアリスムと写真　実験的な技法と表現」と題された展示において、ボワファールの作品7点が展示されました。
「シュルレアリスムと写真　痙攣する美」展 (2008年): 東京都写真美術館で開催されたこの展覧会では、横浜美術館所蔵のボワファールの作品が複数出品されました。ゼラチン・シルバー・プリントで制作された、タイトル未定の作品が中心です。
「シュルレアリスム」展 (2011年): 国立新美術館で開催された大規模なシュルレアリスム展においても、ボワファールの作品が紹介されました。展示された作品には、「折れ曲がったスポーク」というタイトルの作品や、抽象的なフォトグラム、女性のヌードをモチーフにした作品などがあり、彼の多様な表現方法が示されています。これらの作品は、ゼラチン・シルバー・プリントやフォトグラムといった技法で制作されています。

これらの展覧会で紹介された作品は、ボワファールのシュルレアリスム的な視覚言語を象徴するものです。彼の作品は、現実と非現実、夢と現実の境界線を曖昧にすることで、見る者に強い印象を与えます。ボワファールは、シュルレアリスム運動に貢献した重要な写真家の1人であり、その作品は現在でも多くの人々を魅了し続けています。彼の活動は、シュルレアリスム写真の歴史において重要な位置を占めています。

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