高尿素窒素血症

高尿素窒素血症（こうにょうそちっそけっしょう）

概要

高尿素窒素血症は、血液中に含まれる尿素窒素（BUN: Blood Urea Nitrogen）の濃度が、正常な範囲を超えて高くなった状態を指します。尿素窒素は、タンパク質が体内で分解される過程で生じる老廃物である尿素に含まれる窒素成分です。通常、尿素は肝臓で生成され、血液によって腎臓に運ばれて尿として体外に排泄されます。この排泄経路に問題が生じるか、あるいは体内で尿素が過剰に生成される場合に、血液中の尿素窒素濃度が上昇し、高尿素窒素血症となります。

尿素窒素について

尿素窒素は、食事から摂取したタンパク質や、体内の古くなった細胞のタンパク質が分解される過程で生じるアミノ酸から、最終的に肝臓で合成されます。この尿素は、毒性の高いアンモニアを無毒化して体外へ排泄するための重要な物質です。血液中の尿素窒素濃度は、腎臓の機能を示す指標の一つとして、血液検査で広く測定されます。測定には、通常、採血された血液から得られる血清が用いられます。健康な人の血清尿素窒素の基準値は、施設や測定方法によって多少異なりますが、一般的に成人で8～20 mg/dL程度とされています。

原因

高尿素窒素血症を引き起こす主な原因は、以下の二つに大別されます。

1. 腎臓からの排泄能力の低下

これが高尿素窒素血症の最も一般的な原因です。腎臓の機能が低下すると、血液中の尿素を十分に濾過し、尿として体外に排泄することができなくなります。様々な腎臓病がこの状態を引き起こします。

急性腎障害: 突然、腎臓の機能が急速に低下する状態。脱水、出血、薬剤、感染症、尿路閉塞などが原因となります。
慢性腎臓病: 長期間にわたって徐々に腎臓の機能が低下していく状態。糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎などが代表的な原因です。腎機能の低下が進むにつれて、尿素窒素の値は持続的に上昇します。
尿路閉塞: 尿管や膀胱、尿道の閉塞により尿の流れが妨げられ、腎臓に負担がかかり機能が低下します。尿路結石や前立腺肥大症などが原因となります。

2. 尿素生成量の増加

腎臓の機能が正常であっても、体内で尿素が過剰に生成されると尿素窒素の値が上昇することがあります。

消化管出血: 胃や腸からの出血により、血液に含まれる大量のタンパク質（ヘモグロビンなど）が消化管内で分解され、多くの尿素が生成されます。
高タンパク食: 一時的に大量のタンパク質を摂取した場合に、分解産物として尿素が増加することがあります。
飢餓や代謝亢進状態: 極端な飢餓状態や、重度の感染症、熱傷、手術後など、体内のタンパク質分解が亢進する場合に尿素生成量が増加します。
特定の薬剤: テトラサイクリンなどの一部の抗生物質も、腎機能を低下させたり、尿素生成に影響を与えたりすることが知られています。
脱水: 体内の水分量が不足すると、血液が濃縮され、見かけ上、尿素窒素の濃度が高くなることがあります。腎臓への血流も低下し、尿素の排泄能力も低下するため、高尿素窒素血症の原因となります。

症状

軽度の高尿素窒素血症は、ほとんど自覚症状がないことがしばしばです。しかし、尿素窒素の値が著しく高くなると、体内に老廃物が蓄積することによる様々な症状（尿毒症症状）が現れます。

全身倦怠感、疲労感
食欲不振、悪心、嘔吐
頭痛、集中力の低下、見当識障害
皮膚のかゆみ
筋力低下、筋肉のけいれん
口臭（アンモニア臭）
重症化すると、意識障害（傾眠、昏睡）、異常な呼吸パターン、心膜炎、消化管出血傾向などが現れることがあります。

これらの症状は、高尿素窒素血症だけでなく、原因となっている病気（特に腎不全）の進行によるものである場合が多いです。

診断

高尿素窒素血症の診断は、血液検査で血清尿素窒素（BUN）値を測定することによって行われます。BUN値の上昇を確認したら、その原因を特定するために、血清クレアチニン値、推算糸球体濾過量（eGFR）といった他の腎機能マーカーを測定したり、尿検査、腎臓の超音波検査やCT検査などを行ったりします。また、消化管出血の有無など、尿素生成増加の原因についても調べます。

治療

高尿素窒素血症の治療は、その根本原因を取り除くことが最も重要です。原因に応じた治療が行われます。

腎機能障害が原因の場合: 原疾患（糖尿病、高血圧、腎炎など）の治療を徹底します。腎臓を保護するために、適切な血圧管理や血糖管理が不可欠です。食事療法として、タンパク質の摂取量を制限して尿素の生成を抑えたり、水分、塩分、カリウム、リンなどの摂取量を腎機能に応じて調整したりします。腎機能が著しく低下し、尿毒症症状が現れるような場合には、透析療法（血液透析、腹膜透析）や腎移植といった腎代替療法が必要となります。
* 尿素生成増加が原因の場合: 例えば、消化管出血が原因であれば止血処置を行います。脱水が原因であれば、輸液による水分補給を行います。薬剤が原因であれば、その薬剤の中止や変更を検討します。

予後

高尿素窒素血症の予後は、その原因、重症度、合併症の有無、そして適切な治療が速やかに行われるかによって大きく異なります。原因となっている病気が治療可能であれば予後は良好ですが、慢性腎臓病が進行した結果である場合は、腎機能の回復は難しく、長期的な管理や腎代替療法が必要となることがあります。早期に原因を発見し、適切な治療を開始することが重要です。

脚注
：本記事は一般的な情報を提供するものであり、個別の診断や治療に関する助言ではありません。高尿素窒素血症が疑われる場合は、必ず医療機関を受診してください。

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