高田衛

高田衛（1930年4月17日-2023年7月5日）氏は、近世文学、とりわけ江戸時代の幻想文学研究において、重要な足跡を残した日本近世文学研究者です。旧東京都立大学名誉教授も務めた高田氏は、富山県砺波市にある老舗旅館の家に生まれました。早稲田大学で日本文学を学び、その後、東京都立大学で博士課程を修了しています。

高田氏の研究は、当初は上田秋成を中心としたものでしたが、1980年に発表した『八犬伝の世界』（中公新書）によって、大きな注目を集めました。同書で、高田氏は『南総里見八犬伝』を道教的な視点から大胆に解釈。作中の伏姫を文殊菩薩、八犬士を八大童子と見なす独自の説を展開し、大きな議論を呼び起こしました。近世漢文学者である徳田武氏との間で論争が巻き起こったことでも知られています。この解釈は、従来の研究に新たな視点を提供するものであり、高田氏の学問的胆力と洞察力を示すものといえるでしょう。

『八犬伝』に関する研究以外にも、高田氏は江戸時代の幻想文学全般にわたる深い造詣を示し、多くの著作を発表しました。その研究対象は多岐にわたり、『雨月物語』や怪談文学、さらに江戸時代の女性像といったテーマにも及んでいます。1999年には『女と蛇 表徴の江戸文学誌』で第8回やまなし文学賞を受賞するなど、その研究業績は高く評価されました。

高田氏の著作は多岐に渡り、単著として『上田秋成年譜考説』『上田秋成研究序説』『餓鬼の思想 中世文学私論』『江戸幻想文学誌』『江戸の悪霊祓い師』『女と蛇 表徴の江戸文学誌』などがあります。また、校訂・編著として『西山物語・雨月物語 ほか』『新編 日本古典文学全集78』『江戸怪談集』『大坂怪談集』など、古典文学の研究・普及にも大きく貢献しました。これらの著作は、現代の私たちが江戸時代の文学や文化を理解するための貴重な資料となっています。

晩年まで精力的に研究活動を続け、2023年7月5日、93歳でうっ血性心不全のため逝去されました。その死は、日本文学研究界に大きな損失をもたらしました。しかし、高田氏が遺した膨大な研究成果は、これからも多くの研究者や読者に影響を与え続けることでしょう。高田氏の研究は、江戸時代の文学作品を単に歴史的な資料として扱うのではなく、現代社会に通じる普遍的なテーマを見出すという点において、大きな意義を持っています。例えば、『八犬伝』の解釈においても、道教的な視点を取り入れることで、現代の私たちが新たな視点から古典作品を捉え直すきっかけを与えてくれています。

高田衛氏の研究は、私たちが江戸時代の文学や文化を理解し、現代社会と繋げるための重要な手がかりを与えてくれます。氏の遺した業績は、今後とも多くの研究者や読者によって継承され、発展していくことでしょう。

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