高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律

ハートビル法：高齢者・障害者にとって使いやすい建築物を実現するための法律

1993年に制定された「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」、通称「ハートビル法」は、高齢者や身体障害者にとって使いやすい建築物の建築を促進することを目的とした日本の法律でした。2006年には「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」（バリアフリー新法）の施行に伴い廃止されましたが、日本のバリアフリー化の歴史において重要な役割を果たしました。

ハートビル法の目的

ハートビル法の第一条では、高齢者や身体障害者などが円滑に利用できる建築物の建築を促進することで、建築物の質の向上を図り、公共の福祉の増進に資することを目的としています。これは、駅や百貨店、ホテルなど、不特定多数の人が利用する公共的な建築物が、高齢者や身体障害者など社会的弱者にとっても使いやすい環境であるべきという考えに基づいています。

特定建築物と特別特定建築物

ハートビル法では、高齢者や身体障害者などが円滑に利用できるようにすべき建築物を「特定建築物」と「特別特定建築物」に分類していました。

特定建築物は、学校、病院、劇場、百貨店、ホテル、事務所、共同住宅など、多数の人が利用する建築物やその一部、およびそれらに附属する施設を指します。これらについては、利用円滑化基準への適合努力義務が課せられていました。

特別特定建築物は、不特定かつ多数の者が利用したり、主として高齢者や身体障害者などが利用する特定建築物の中で、特に円滑な利用が求められるものを指します。延べ床面積2,000平方メートル以上の特別特定建築物については、利用円滑化基準への適合義務が課せられ、違反した場合には罰則が適用されました。

具体的な特定建築物と特別特定建築物の種類は、政令で詳細に規定されていました。例として、学校、病院、劇場、百貨店、ホテル、事務所、共同住宅、老人ホームなどが含まれていました。

ハートビル法の構成

ハートビル法は、以下の5章で構成されていました。

第1章：総則
第2章：特定建築物の建築等における義務等
第3章：特定建築物の建築等及び維持保全の計画の認定
第4章：雑則
第5章：罰則

福祉のまちづくり条例

ハートビル法は、全国の地方公共団体において、「福祉のまちづくり条例」と呼ばれる条例によって補完されていました。これは、ハートビル法だけではバリアフリー化のニーズの高まりに対応しきれないという背景から制定されました。これらの条例では、ハートビル法をさらに詳細化し、地域特性に合わせたバリアフリー化を推進する規定が盛り込まれていました。例えば、東京都の条例では、一定規模以上の都市施設の改修・新築において、集団補聴システムの設置が義務付けられていました。

ハートビル法の改正（2003年）では、地方公共団体が地域の実情に合わせて条例を制定し、法の内容を拡充・強化できるようになりました。この仕組みは、バリアフリー新法にも引き継がれ、現在も多くの自治体で委任条例が制定・活用されています。

ハートビル法の廃止とその後

ハートビル法は、2006年のバリアフリー新法の施行により廃止されました。しかし、ハートビル法で培われた経験やノウハウは、バリアフリー新法や、各地の福祉のまちづくり条例に引き継がれ、現在も日本のバリアフリー化を推進する上で重要な役割を果たしています。高齢者や障害者にとってより住みやすい、利用しやすい社会の実現に向けて、継続的な取り組みが続けられています。