髙嶋仁

髙嶋 仁

1946年5月30日、長崎県五島市に生まれた髙嶋 仁は、アマチュア野球選手として活躍した後、指導者の道に進んだ人物です。

選手時代

幼少期には柔道やソフトボールに親しんだ髙嶋氏ですが、福江中学校への入学を機に野球部へ入部しました。長崎海星高校時代は投手と外野手を兼任し、1963年と1964年には夏の甲子園に出場しています。この高校時代の経験が、将来指導者として再びこの舞台に戻る決意を固めさせました。進学を巡る父との葛藤を乗り越え、実家の製氷工場で働きながら一年間の浪人生活を送った末、中学校時代の監督の母校である日本体育大学体育学部体育学科へ進学。硬式野球部では外野手として活躍し、二年生時には強豪東海大学を破り首都大学野球リーグ戦での優勝を経験。四年生時には主将を務めました。

指導者としての第一歩：智弁学園

1970年に大学を卒業後、地元長崎での教員採用試験は不合格となりますが、大学時代の監督の推薦もあり、奈良県の智弁学園高校のコーチに就任します。1972年には同校の監督に昇格。しかし、監督就任当初はなかなか結果が出ず、初戦や二回戦での敗退が続き、三度にわたって辞表を提出する苦悩を経験しました。さらに、就任四年目の1975年には選手による練習ボイコットという困難にも直面しています。こうした逆境を乗り越え、1975年秋季近畿大会でのベスト8進出が翌春の選抜大会出場へと繋がり、1976年に監督として念願の甲子園初出場を果たします。初戦で勝利を収め、監督としての甲子園初勝利を挙げました。1977年春の選抜ではチームをベスト4に導くなど、次第に頭角を現しました。

名門の礎を築く：智弁和歌山

1978年限りで智弁学園の監督を退任し、一年間部長を務めた後、1980年に系列校である智弁和歌山高校の野球部監督として転任します。ここで2018年夏まで長きにわたり指揮を執り、輝かしい実績を積み上げることになります。1985年に智弁和歌山として初の甲子園出場を果たしますが、当初は甲子園で五連敗を喫するなど、勝利を掴めない苦しい時期が続きました。観客席からの心無い野次に奮起し、甲子園出場を目標としていたそれまでから、甲子園での「優勝」を明確な目標として掲げるようになりました。様々な試行錯誤を重ねた結果、選手一人ひとりに向き合う少人数制（一学年10名程度）を導入したことが転機となり、チームは快進撃を始めます。1993年夏に智弁和歌山として甲子園初勝利を挙げると、翌1994年春には選抜で初優勝を達成。その後、1997年夏、2000年夏と立て続けに選手権大会を制覇し、智弁和歌山を全国屈指の強豪へと育て上げました。この間、選抜で1996年、2000年、2018年に、選手権で2002年に準優勝も果たしています。2006年夏には、PL学園元監督の中村順司氏に次ぐ監督通算50勝、そして史上初となる夏の大会通算30勝という金字塔を打ち立てました。2010年春には史上最多となる監督通算59勝目を記録し、その後も勝利を積み重ね、最終的に監督通算68勝（歴代2位）という偉大な記録を樹立しました。2012年夏には戦後最多となる8年連続甲子園出場を達成するなど、その手腕は高く評価されました。

記録達成と勇退

2018年春、監督として春夏通算37度目の甲子園出場を果たし、福井商業元監督の北野尚文氏を抜き歴代最多記録を更新。さらに、この大会で史上初となる監督通算100試合出場も達成しました。同年夏の記念大会にも出場し、通算38度目の甲子園となりましたが、一回戦で敗退。大会後の8月25日、長年指揮を執った智弁和歌山の監督の座を退くことを発表しました。後任には、愛弟子で同校の部長であった中谷仁氏が就任しています。

監督退任後

監督勇退後も、智弁学園および智弁和歌山の硬式野球部名誉監督として高校野球に関わり続けています。また、朝日放送ラジオやNHKラジオで解説者として甲子園や地方大会の試合を見守るほか、2019年には環太平洋大学体育学部の特任教授に就任。同年に吉本興業グループのマネジメントを受けることも発表され、多方面で活動しています。

指導哲学と采配

髙嶋氏の野球のモットーは「常に全力を出し切る」ことでした。甲子園のベンチ前で表情をほとんど変えずに仁王立ちする姿は、甲子園の名物ともなりました。チーム編成においては、複数のポジションをこなせるユーティリティープレイヤーを重視し、投手・野手ともに兼任できる選手を育成していました。これは、かつて絶対的なエースに頼った結果、投手が故障した経験から生まれた複数投手制の考えにも繋がっています。エースナンバーを背負わない投手が実質的な柱となることも少なくありませんでした。采配は、試合展開に応じて継投策をとることもあれば、先発投手を引っ張ることもあり、時に初回で投手を交代させる大胆さも見せました。選手への伝令や交代時の指示が勝利に繋がった例も多く、その卓越した采配は、他の高校野球指導者である木内幸男氏や元プロ野球監督の野村克也氏からも絶賛されるほどでした。攻撃力が注目されがちですが、本来目指す野球は投手を中心とした守りの野球でした。選手が守備範囲ぎりぎりで捕球できるかどうかの絶妙な位置へ打ち分けるノック技術にも定評があり、甲子園でも数多くのファインプレーが勝利に貢献しています。試合を優位に進めるため、早い回での先取点奪取を狙い、伝統的に先攻を選択することが多かった点も特徴です（近年は後攻を選ぶケースも見られました）。

苦難とエピソード

輝かしい実績の裏側には苦難もありました。全国制覇を成し遂げた翌年に、地方大会の初戦で敗退するという波乱も経験しています。特に甲子園初出場の1985年春から1992年夏にかけては、5大会連続で初戦敗退という長いトンネルを経験しました。また、2008年には部員への暴力事件により三ヶ月の謹慎処分を受け、学校法人智辯学園の理事を退任する出来事もありました。この謹慎期間中に四国八十八箇所を巡拝したことは広く報じられ、四国の名将たちからも励ましを受けたといいます。巡拝後、高野山の町石道を歩くことが習慣となり、心身のリフレッシュを図っていた時期もありました。長崎日大高校の的野和男総監督は髙嶋氏の高校時代のコーチであり師弟関係にあたりますが、公式戦での直接対決は2000年秋の国体での一度きりでした。

家族と教え子

大学時代の同級生の女性と結婚し、一男一女に恵まれました。長男も智弁和歌山高校の野球部に所属し、親子二代にわたって夏の選手権大会に連続出場を果たしています。さらに、孫（長男の子）も同校の選手として甲子園に出場し、親子三代での甲子園出場、そして親子三代甲子園安打という記録を達成。孫は決勝での活躍などでチームの全国制覇に貢献し、祖父や父をも凌ぐ活躍を見せました。多くのプロ野球選手を含むOBを輩出しており、高代延博氏を「教え子第1号」としています。

主な教え子（一部）

高代延博
中谷仁
岡田俊哉
西川遥輝
黒原拓未
林晃汰
黒川史陽
細川凌平

高校野球界に大きな足跡を残した名将として、今もその存在感は揺るぎないものとなっています。

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