髭黒の北の方

髭黒の北の方：悲劇のヒロイン、その生涯と家族

源氏物語に登場する髭黒の北の方。彼女は、物語に奥深いドラマをもたらす重要な女性です。この記事では、彼女の人生と家族関係を詳細に解説します。

生い立ちと家族

髭黒の北の実は、兵部卿宮（のち式部卿宮）の長女。母は、式部卿宮の正妻である「式部卿宮の北の方」です。紫上は彼女の異母妹にあたります。彼女は髭黒よりも3、4歳年上であり、髭黒の最初の正妻として、娘一人（真木柱）と息子二人をもうけました。

複雑な夫婦関係

髭黒との夫婦仲は良好とは言えず、しばしば癇癪を起こす彼女は「物の怪に取り憑かれている」と言われるほどでした。この不安定な関係は、髭黒が玉鬘を妻に迎えたことで決定的になります。玉鬘を新しい妻に迎えたことに激怒した彼女は、娘の真木柱と共に実家へ帰ってしまうのです。後に息子たちは髭黒に引き取られますが、真木柱は彼女の元に残りました。この出来事は、彼女の悲劇的な運命を決定づける重要な転換点となりました。

物語における登場と描写

髭黒の北の実は、源氏物語の複数の巻に登場します。各巻で、彼女の状況や心情は変化していきます。

第30帖「藤袴」: 髭黒の正妻として登場し、彼女の年上の妻としての立場が示されます。
第10帖「賢木」: 彼女の母である「式部卿宮の北の方」が、娘の不幸を案じる様子が描かれています。これは、娘の不幸な結婚生活を間接的に示唆する重要な描写です。
第24帖「胡蝶」: 夫との不仲が明示的に示されています。
第31帖「真木柱」: 髭黒の玉鬘への熱中を嘆き、物の怪に取り憑かれたかのような癇癪を起こす様子が克明に描写されています。雪の日に、玉鬘のもとへ向かおうとする夫に火取の灰を浴びせるという劇的な場面も見られます。この出来事が、夫婦関係の破局を決定づけるのです。
第35帖「若菜下」: 夫との関係は完全に断絶しており、精神的に病んでいる描写が見られますが、正気を取り戻した際には、娘の真木柱と蛍兵部卿宮の仲を案じている様子が描かれています。

これらの描写を通して、彼女はただ不幸な妻というだけでなく、娘を深く愛する母であり、複雑な感情を抱える女性であることが分かります。

悲劇のヒロイン像

髭黒の北の実は、不幸な結婚生活を送った女性として、源氏物語において重要な役割を果たしています。彼女の悲劇的な運命は、当時の女性の置かれた立場や、家族関係の複雑さを象徴的に示していると言えるでしょう。彼女の一生は、読者に深い印象を与え、物語に悲劇的な深みを与えています。夫との不仲、娘への深い愛情、そして複雑な家族関係。これらの要素が絡み合い、彼女を源氏物語の中でも特に印象深い人物にしています。彼女の存在は、物語全体に影を落とし、読者に様々な感情を抱かせます。彼女の物語は、読者に、平安時代の女性の生きづらさや、複雑な人間関係について考えさせる機会を与えてくれるでしょう。

参考文献

篠原昭二「作中人物事典 髭黒の北の方」秋山虔編『源氏物語事典』学燈社〈別冊国文学〉No.36、1989年（平成元年）5月10日、p. 294。
* 「髭黒の元北の方」西沢正史編『源氏物語作中人物事典』東京堂出版、2007年（平成19年）1月、p. 255。　ISBN 978-4-490-10707-4

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