魚津大火

魚津大火（うおづたいか）

1956年（昭和31年）9月10日、富山県魚津市において発生した、市史上最悪ともいわれる大規模な火災です。富山県内では、第二次世界大戦中の富山大空襲以来の甚大な被害をもたらした災害となりました。

発生と拡大の経緯

火災は9月10日の午後7時45分頃、真成寺町の呉服店裏にあった納屋から出火しました。消防へ通報が入ったのはその15分後、午後8時頃のことでした。消防車が現場に到着し放水を開始した午後8時過ぎには、既に火は隣接する建物に燃え広がり、初期消火では対応が困難な状況に陥っていました。当時の魚津市街地は木造建築が密集しており、道路も狭かったため、消火活動は思うように進みませんでした。

さらに、この火災発生時には、九州西方海上を通過し日本海を北東に進んでいた大型の台風12号の影響で、本州の日本海側では台風通過後のフェーン現象により、乾燥した強い風が吹き荒れていました。風向が何度も変わったことも、火災の延焼速度を加速させる要因となりました。火はたちまち神明商店街（現在の魚津中央通り商店街）や市街地北部へと広がり、瞬く間にその地域を焦土と化しました。当時の北日本放送ラジオは、大火の状況を刻々とラジオで伝えました。

被害を拡大させた要因

フェーン現象による乾燥した強風という気象条件に加え、市街地内の水利が著しく不足していたことも被害を拡大させた大きな要因でした。市街地で唯一の自然水利であった鴨川は、上流の発電所工事や水田への導水のため、水量がほとんどない状態でした。市内には157基の消火栓が設置されていましたが、火の回りが速く避難を余儀なくされた住民が消火栓を開け放したままにしたため、水圧が低下し、効果的な消火活動を妨げる結果となりました。また、強風にあおられた火の粉による飛び火が各地で発生し、新たな火災を引き起こしました。

災害対応

火災発生を受けて、午後9時には富山県庁に県災害対策本部が、魚津市役所に現地対策本部が設置されました。午後10時30分には富山県により災害救助法が発動され、被災者の救助にあたりました。周辺市町村からは約100台もの消防車が応援に駆けつけ、遠く新潟県糸魚川市からの消防隊も到着しました。事態の深刻さから、陸上自衛隊金沢駐屯部隊の一個大隊も出動しました。

被害の状況

火勢は翌11日午前2時過ぎに風が止んで衰え始め、午前2時45分頃にようやく鎮火しました。この大火により、焼失戸数は1,583戸、罹災者は7,219人、死者5名、負傷者170名（うち重傷5名）に上りました。被害総額は約75億円と見積もられ、魚津市街地の面積の約30%が焼失しました。

主要な被害地域には、真成寺町、神明町（現在の中央通り1丁目）、金屋町（現在の中央通り2丁目）、村木地区（現在の村木町、末広町、緑町など）、新金屋町、下村木町などが含まれます。中央通り商店街や魚津銀座といった商業地のほか、魚津市立村木小学校、神明社をはじめとする多くの寺社、北陸銀行や富山産業銀行（現・富山銀行）などの金融機関、吉田工業（現・YKK）や本江酒造（現・魚津酒造）といった工場、さらにはカーバイド記念社宅など、多数の建物が焼失しました。焼失した店舗は当時の市内総店舗数の約4分の1にあたる250軒余りでした。

また、大淀三千風筆俳諧連歌一巻など、貴重な文化財も失われました。しかし、郷土資料である『魚津古今記』は、石川県金沢市の図書館に異本が所蔵されていたため、焼失を免れることができました。

火災の原因については、放火や火の不始末、自然発火など諸説が唱えられましたが、現在も明確な原因は特定されていません。

復興への道のり

未曽有の被害を受けた魚津市は、国や県の支援を受けながら、耐火性の高い「不燃都市」を目指した大規模な復興計画を策定しました。火災からわずか16日後の9月26日には「魚津市都市計画復興土地区画整理事業施行区域」が決定されました。被災者が無秩序に再建し、再び密集した街並みになることを防ぐため、区域内の建築は一時的にバラック建てに制限されました。

1957年1月には富山県魚津市復興都市計画事務所が設置され、本格的な区画整理事業が開始されました。対象範囲は焼失地域とその関連区域を合わせて62.5ヘクタールにおよび、事業費は約2億9千万円という、当時の魚津市の財政規模からすると非常に大きな事業でした。この都市計画により、市街地を貫く幹線道路が整備され、中央通り商店街や魚津銀座には鉄筋コンクリート造りの近代的な店舗が並ぶ「防火建築帯」が建設されました（1959年完成）。

復興事業はその後も続き、下水道整備、公園・墓地の造成なども進められ、約6年後の1962年3月31日にすべての復興事業が完了し、魚津市は近代的な都市へと生まれ変わりました。1958年に富山県で開催された国体では、昭和天皇と香淳皇后が村木小学校の屋上から復興状況を視察されました。被災した企業や市民も復興に尽力し、全国からの義捐金や救援物資、ボランティアによる支援も復興を支えました。

魚津大火は、悲惨な災害であると同時に、その後の魚津市の近代的な都市構造を形成する大きな契機となった出来事です。災害からの復旧・復興における計画的な都市づくりの重要性を示す事例としても語り継がれています。

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