魚町停留場

北九州市の玄関口である小倉の繁華街、魚町。この活気あふれる地区にかつて、西日本鉄道（西鉄）の路面電車停留場が存在しました。それが魚町停留場です。西鉄北九州本線と西鉄北方線という、二つの異なる系統の電車がここを経由していましたが、興味深いことに、両路線の線路は物理的に接続されていませんでした。

魚町停留場の歴史は、1911年（明治44年）6月5日に、九州電気軌道が敷設した本線の最初の区間が開通したのに伴い、その停留場の一つとして開設されたことから始まります。その後、1932年（昭和7年）10月2日には、小倉電気軌道という別の事業者が運行していた路面電車線が、魚町停留場のほど近くにあった大坂町まで延伸されました。この時、終点として大坂町停留場が設けられます。

転機が訪れたのは1942年（昭和17年）3月です。九州電気軌道が小倉電気軌道を合併した際、もともと小倉電気軌道線だった路線は西鉄北方線へと名称を変え、同時に大坂町停留場も本線の停留場に合わせて「魚町」に改称されました。これにより、実質的に本線と北方線は同一の停留場名を持つことになります。さらに同年9月22日には、九州電気軌道などを統合して西日本鉄道が成立し、魚町停留場は晴れて西鉄の停留場となりました。

魚町地区は、小倉北区の中心として古くから商業施設や金融機関などが集まる要衝であり、その立地を反映して魚町停留場は常に多くの利用客で賑わいました。特に北九州本線では、多数の乗客がここで乗降し、電車が到着するたびに大量の人員が入れ替わる光景が見られたといいます。この中心街での交通拠点としての役割は、路面電車の利用を大きく支えていました。

停留場の構造は、乗り入れる路線によって異なっていました。

北九州本線の停留場は、魚町地区を東西に貫く主要な通り、現在の勝山通り上に位置していました。具体的には、魚町交差点と銀天街入口交差点の間に設けられており、上下線それぞれに、乗客が安全に乗降するための細長いプラットホーム（安全地帯）が設置されていました。加えて、これらの主要な乗降場に進入する手前側、下り線側は銀天街入口交差点の東、上り線側は魚町交差点の西にも、降車専用の安全地帯が設けられていました。主要な乗降場の安全地帯は比較的長く取られており、複数の電車を同時に停車させることが可能でした。しかし、前述のように利用客が非常に多かったため、停車時間が長くなりがちでした。そのため、もし前方の乗降場が埋まっていて後続の電車がすぐに入線できない場合は、手前に設けられた降車専用の安全地帯でまず乗客を降ろし、乗降場が空くのを待機するという運用が行われていました。

一方、北方線の停留場は、魚町交差点から南方向、現在の「みかげ通り」と呼ばれる県道沿いにありました。この停留場部分では、上下線が一本の線路に収束し、そこを発着線として電車が使用していました。乗客はこちらの線路沿いに設けられた一面の安全地帯で電車の到着を待っていました。この上下線が合流する形式は、時期によって何度か変更された記録が残っています。また、合流する手前の上り線側には、安全地帯のない降車専用の場所があり、こちらは路面に白い線でその領域が示されているだけでした。北方線の軌道終端部には、驚くべきことに車止めのような衝突を防ぐための設備が一切ありませんでした。この構造が原因で、まだ電車に空気ブレーキが装備されていなかった、車体が短い「単車」と呼ばれる車両が運行されていた時代に、停車しきれなかった電車が終端部を突破し、さらに北九州本線の線路を乗り越えて、通りに面した店舗に突っ込むという事故が過去に二度も発生したことが記録されています。

多くの人々の生活や街の賑わいを支えた魚町停留場ですが、路面電車の衰退という時代の流れには逆らえませんでした。まず北方線が1980年（昭和55年）11月2日に路線全体の廃止に伴ってその役割を終え、次いで北九州本線も1992年（平成4年）10月25日、砂津から黒崎駅前までの区間廃止により、魚町停留場はその90年以上にわたる歴史に完全に幕を下ろしました。

停留場が廃止されて以降、路面上にあった乗降場や安全地帯といった施設はすべて撤去され、現在、その痕跡は地表には全く残されていません。かつて多くの人々が行き交った賑わいの中心地の停留場は、今は写真や記録の中にだけ存在しています。

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