鮑叔

鮑叔牙：管仲との友情と斉の覇業を支えた賢臣

鮑叔牙（ほうしゅくが）は、中国春秋時代の斉（き）の政治家として知られています。生没年は不明ですが、斉桓公（きかんこう）の治世において重要な役割を果たした人物です。彼の姓は姒（じ）、氏は鮑、諱は牙、字は叔であり、鮑叔牙の名で広く知られています。

鮑叔牙の祖先は、姒姓の国・杞（き）の公子でした。斉に仕えた際に鮑という地に封ぜられたことから、鮑氏を名乗るようになったと伝えられています。

若い頃から、鮑叔牙は管仲（かんちゅう）と深い友情で結ばれていました。二人は共に商売を行い、その過程で鮑叔牙の度量の大きさが際立っています。管仲が商売で大きな損失を出した際も、鮑叔牙は時勢の変動を理解し、決して咎めませんでした。逆に、多大な利益を得た時でも、貧しい管仲のためにそのほとんどを分け与えたと言われています。鮑叔牙のこの絶大な厚情に、管仲は深く感謝し、「私を生んだのは父母だが、父母以上に私を知る者は鮑叔である」と述べたという逸話は、後世まで語り継がれ、管鮑（かんほう）の交わりとして、理想的な友情の象徴として称えられています。

その後、鮑叔牙は公子小白（こうしはく）に仕えるようになります。小白は斉の釐公（りこう）の子でしたが、兄の襄公（じょうこう）からの圧迫を逃れるため、小白と共に莒（きょ）という国に亡命しました。やがて襄公が暗殺されると、斉国内では後継者争いが勃発。莒から帰国した小白と公子糾（こうしきゅう）が覇権を争う事態となります。この争いにおいて、鮑叔牙は小白を支え、その勝利に大きく貢献しました。小白はその後、斉桓公として即位します。

この後継者争いで、公子糾を支持していた魯（ろ）から、公子糾の重臣であった管仲と召忽（しょうくつ）が捕らえられました。桓公は、管仲を殺そうとしましたが、鮑叔牙は管仲の才能を見抜き、彼を桓公に仕えさせるよう強く進言しました。召忽は公子糾の死を知り自害してしまいますが、管仲は鮑叔牙の尽力によって、桓公に仕えることになります。

桓公は管仲を宰相に任命し、その手腕によって覇者となりました。しかし、鮑叔牙は単にその陰に隠れた存在ではありませんでした。史記には、人々は桓公を覇者へと押し上げた管仲よりも、管仲の才能を見抜き、信頼し続け、常に彼を支え続けた鮑叔牙を称えた、と記されています。鮑叔牙は、管仲と共に政治にあたった、賢臣としてその名を残しているのです。

鮑叔牙は、単なる優れた政治家というだけでなく、深い友情、卓越した識見、そして強い信念を持った人物でした。管仲との友情、斉の覇業への貢献、そして人々からの称賛は、鮑叔牙という人物がいかに偉大であったかを物語っています。彼の生涯は、後世の人々に、友情の大切さ、人材登用の重要性、そして優れた指導者の資質について、多くの示唆を与え続けています。

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