鰺坂二夫

鰺坂 二夫（あじさか つぎお）

日本の教育学界に大きな足跡を残した研究者、鰺坂 二夫（1909年2月8日 - 2005年5月12日）は、京都大学名誉教授として知られています。その生涯は、教育実践家である小原國芳との深い関わりとともに展開し、教育思想の研究、特に西洋教育思想史における古典の探求、そして現代の子どもの教育や家庭教育に関する啓発活動に捧げられました。

鰺坂は鹿児島県に生まれ、教育者として名高い小原國芳の長兄の子として育ちました。後に叔父にあたる國芳の養子となり、その人生は國芳の影響を強く受けることになります。旧制鹿児島県立第二鹿児島中学校を経て、國芳が校長を務めていた旧制成城高等学校で学びました。1932年には京都帝国大学文学部教育学科を卒業し、教育学の道を本格的に歩み始めます。大学卒業後、國芳の娘と結婚し、國芳が養子縁組によって継承していた鰺坂家を代わって相続することとなりました。このように、鰺坂の生い立ちから学歴、そして家族に至るまで、小原國芳の存在が深く関わっています。

卒業後、鰺坂は教育現場や行政、そして学術研究機関で幅広い経験を積みました。静岡県視学官として教育行政に関わった後、東京農業教育専門学校教授、鹿児島大学教授を歴任しました。そして1959年、日本の教育学研究の中核を担う京都大学教育学部の教授に就任します。京都大学では教育思想や方法論に関する研究・教育に尽力し、多くの後進を育てました。1972年に京都大学を定年退官し、名誉教授の称号を授与されました。大学を離れた後も、その教育に対する情熱は衰えることなく、甲南女子大学の学長を務めるなど、高等教育機関の運営にも携わりました。また、文部省（現在の文部科学省）の教育職員養成審議会会長として、教員育成のあり方についても重要な提言を行いました。

教育者としての幅広い活動と並行して、鰺坂は精力的に研究成果を発表し続けました。特にペスタロッチやルソーといった教育思想史上の重要人物に関する研究は初期から取り組み、その著書や翻訳は日本の教育学研究に大きな影響を与えました。代表的な著作として、『ペスタロッチーの教育思想』、『ルソーの教育思想』、『デューイの教育学』といった古典思想に関するものから、『子どもとは 愛と真実の教育』、『こどもの学習としつけ』、『子どもの家庭教育』、『教育ママ』、『教育原論』、『子どもが危ない！教育に愛と心を』など、現代社会における子育てや家庭教育、学校教育の課題に深く切り込んだものが多数あります。これらの著作は、専門家だけでなく一般の読者にも広く読まれ、子育て世代を中心に支持を得ました。また、『ルソーのエミール』や『ペスタロッチー全集』の翻訳も手掛け、海外の重要な教育古典を日本に紹介する役割も果たしました。

鰺坂家の教育者としての系譜は鰺坂二夫に留まりません。実弟には明星大学の学長を務めた児玉三夫がおり、子には関西大学名誉教授である鰺坂真がいます。このように、家族の中にも教育に携わる人材が多く、鰺坂の教育に対する姿勢や考え方が受け継がれていったことがうかがえます。

多岐にわたる教育分野での貢献、特に教育思想史の研究と現代の教育課題への提言、そして教育行政や大学運営における指導的役割を通じて、鰺坂二夫は日本の教育の発展に貢献しました。その思想と業績は、今日の教育を考える上でもなお重要な示唆を与えています。

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