小原國芳

小原國芳（おばら くによし）

小原國芳（1887年4月8日 - 1977年12月13日）は、日本の著名な教育学者であり、学校法人玉川学園の創立者として知られています。彼は、永野修身海軍大臣直属の海軍教育顧問も務め、キリスト教徒でもありました。小原は日本国内のみならず、朝鮮半島、満洲、中国大陸、台湾などアジア各地を訪れ、「新教育」の重要性を説きました。また、一時的に「鯵坂」姓を名乗っていた時期があります。

生涯

鹿児島県に生まれた小原は、幼くして母を亡くしました。祖父は寺子屋の師匠でしたが、家が没落したため、小原は13歳で通信技術養成所に入所し、電信所の技手として働きました。しかし、向学心から18歳で電信所を辞め、鹿児島県師範学校に入学。キリスト教に興味を持ち、教会で小学生の授業を頼まれたことをきっかけに洗礼を受けました。父親の借金問題から、素封家の鯵坂家の養子となり、広島高等師範学校英語科に進学。卒業後、香川師範学校教諭となり、独自の教育手法を取り入れました。

1915年、29歳で京都帝国大学文学部哲学科に入学し、1918年に卒業。「宗教による教育の救済」という卒業論文は、原稿用紙1500枚に及ぶ大作でした。京大時代には、後に湘南学園設立のきっかけとなる藤江富佐から支援を受け、鯵坂家を出る際には借金返済の援助も受けました。

大学卒業後、広島高等師範附属小学校教諭・理事となり、1919年には澤柳政太郎が創設した成城学園に長田新の推薦で赴任し、成城小学校主事となりました。1921年には、八大教育主張講演会で「全人教育」の理念を提唱しました。

1926年、成城高等学校（7年制）校長に就任。駅を誘致して宅地開発を行い、その利益で学校を建設するという方法で成城学園を拡大しました。この計画は本間俊平の助言と支援によって実現しました。この手法を応用し、1929年に自ら玉川学園を創設しました。小原が玉川学園を創立した背景には、成城学園が進学実績を重視する予備校的な性格を強めていくことへの不満がありました。小原は、恩師である小西重直、波多野精一、西田幾多郎を招き、「夢の学校論」を唱え、新教育による教育の総本山を築くことを訴えました。しかし、二つの学校の指導は困難を極め、1933年に成城事件が勃発。教師やPTAが小原派と反小原派に分かれて対立し、生徒も加わって反乱を起こしました。この騒動により、小原は成城学園から身を引き、玉川学園での教育に専念することとなりました。和光学園も、成城事件を機に成城学園から離れた教師・保護者によって創立されました。

玉川学園はその後、幼稚園から大学院までを擁する大規模な総合学園へと発展しました。玉川大学の初代学長は田中寛一、第2代は波多野精一、小原は3代目学長を務めました。1933年には、藤江富佐の依頼で湘南学園を創立しました。

小原は玉川学園創立と並行して大学設立の準備を進め、1942年に東久邇宮稔彦王と永野修身の協力を得て、玉川学園内に興亜工業大学（現：千葉工業大学）を創立しました。この大学は、国家枢要を担う人材育成を目的とした国策的な大学でありながら、小原の全人教育の理念が建学の精神として取り入れられました。

また、海軍大臣永野修身に協力し、海軍の教育改革にも携わりました。ハンモックナンバーによる昇進制度を廃止し、能力主義への移行を助言しましたが、永野が辞任したため実現には至りませんでした。

小原は、教育こそが国家の存亡を左右すると考え、教育本部を設置することを提唱しました。玉川学園と興亜工業大学の創立は、日本の教育立国建設に向けた彼の尽力の結晶です。

太平洋戦争の敗北後、小原は日本の教育政策が自由や創造性を軽視したことが敗因であると回想し、積極的に外国の友人を作るべきだと説きました。1956年には参院選に自民党公認で出馬しましたが落選しました。

小原は自らを「玉川のオヤジ」と称し、教壇で死ぬことを望んでいましたが、1977年12月に90歳で亡くなる数ヶ月前まで、講義室で熱弁をふるい続けました。妻は小原信。著書には『全人教育論』などがあります。

エピソード

福田赳夫首相は、小原を「明治以降の日本教育において、真の教育の開拓者」と評しました。

信条・教え

小原は、西洋人贔屓やアジア人蔑視の態度を批判し、「神なき知育は知恵ある悪魔をつくる」と説きました。また、「国を造るのは人である」とし、教育立国の重要性を訴えました。

教え子・山口二矢への対応

小原の教え子には、浅沼稲次郎暗殺事件を起こした山口二矢がいました。小原は事件後も山口を大切な生徒として接し、世間の批判を恐れて山口を否定した大東文化大学とは対照的な態度を示しました。

全人教育と小原の教育理念

小原國芳と澤柳政太郎は、長年の教育活動を通じて、知識偏重の教育や画一的な評価方法に疑問を抱き、全人教育という理念を提唱しました。全人教育では、知育だけでなく、徳育、体育、 aesthetic education、そして職業教育を重視し、バランスの取れた人格形成を目指します。小原は、日本の伝統的な教育の良さを見直しつつ、欧米の新教育思想を取り入れ、日本独自の教育を創造しようとしました。

表彰・称号等

* 坊津町名誉町民

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