鰻の幇間

鰻の幇間（うなぎのたいこ）

「鰻の幇間」は、古典落語の中でも特に有名な演目の一つであり、失敗談を通じて聴衆を楽しませる作品です。この演目は、作者が不詳である「間抜け落ち」と呼ばれる種類の話に分類されています。主に東京で広く繰り返し演じられることが特徴です。

概要

幇間（たいこ持ち）とは、酒席や娯楽の場に同席し、即興の話や芸で顧客を楽しませ、そこから報酬を得る職業のことを指します。幇間は、置き屋に属する場合と、独立して人脈を頼りに顧客を探す「野だいこ」と呼ばれる場合に分かれます。この演目は、主に野だいこの人物が中心になって展開され、彼の失敗を通じて観客は笑いの中から哀愁を感じることができます。

この作品が最初に得意とされていたのは、明治中期頃の初代柳家小せんで、その後、昭和の時代には8代目桂文楽や5代目古今亭志ん生などの著名な落語家たちによって演じられ、その名は広まりました。特に文楽の演じ方は「悲喜劇」と評され、一方で志ん生は「喜劇」として演じるスタイルが高く評価されました。また、元幇間であった春風亭柳好は「自然体で幇間に近い」とされ、他の落語家たちとはまた一線を画しています。

最近では、上方落語の桂春之輔がこの演目を改作して演じています。

あらすじ

物語は、暑い夏の日に、一八という野だいこが昼食をとろうとして客を探し回るところから始まります。しかし、夏の昼間は座敷の客も少なく、なかなか思うようにうまくいきません。途方に暮れた一八は、道に出て通りかかった男性に声をかけます。「旦那、しばらくぶりです、その節は……」。どうやらこの男は彼を知っている様子ですが、一八は相手の正体が思い出せません。男は一八を近くの鰻屋に誘います。

一八は喜んでついて行くものの、辿り着いたのはさほど評判が良くない薄汚れた鰻屋。そこで蒲焼を肴に酒を飲みながら、一八は男の正体を思い出そうとしますが、男はうまくはぐらかします。やがて男は「便所に行ってくる」と言って立ち去りますが、長い間戻ってきません。心配になった一八が便所を覗くと、誰もいないことに気が付きます。

一八は考えます。「もしかしたら、先に勘定を済ませて去ったのかもしれない」。その粋な男に感謝し、自分も運が向いてきたのだと喜びます。しかし、座敷に戻った一八が残った鰻を食べていると、店の者が勘定を取りに来ました。一八はびっくりし、男の欺瞞が明らかになります。結局、一八は騙されてお金を支払う羽目になるのです。さらに驚くべきことには、勘定が異常に高く、店員から「お連れさんがお土産を六人前持ち帰った」と聞かされ、一八はあきれます。

帰ろうとする一八は、さらに上等な下駄が無いことに気が付きます。店員に尋ねると、「お連れさんがそれを履いて帰られました」と言われ、拍子抜けします。

バリエーション

この演目には様々な演じ方があります。例えば、最後のやりとりにおいて、一八が男の履物を要求すると、店員が「それも風呂敷に包んで持って行きました」と答える展開があるのです。また、「一八を騙した男は一体誰だったのか」という疑問が議論されることもあります。春風亭一之輔は、酒も鰻もまずいという設定を用いて、その上で連れの男が不味い鰻を三人前持ち帰った事をサゲに使うなど、演じ方はいくらでもバリエーションがあり、落語の魅力が深いものとなっています。

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