鳥羽博道

鳥羽博道氏は、1937年10月11日に埼玉県深谷市に生まれた日本の実業家です。株式会社ドトールコーヒーの創業者として、日本のコーヒー文化に革新をもたらした人物として広く知られています。

幼少期に母を亡くした鳥羽氏は、1954年に地元の埼玉県立深谷商業高等学校を中退して上京し、飲食業界で働き始めました。この頃から頭角を現し、1956年には有楽町の喫茶店で店長に抜擢されるなど、若くして経営の才能を発揮しました。

コーヒーの世界に深く魅せられた鳥羽氏は、1959年に単身ブラジルへと渡ります。そこでコーヒー農園の現場監督として働き、コーヒー豆の栽培から収穫、精製に至るまでの工程を肌で学びました。このブラジルでの貴重な経験が、後のドトールコーヒーの品質への徹底したこだわりに繋がることになります。

1961年に帰国した後、1962年には自身の事業の基盤となる有限会社ドトールコーヒーを設立しました。当初はコーヒー豆の卸売業などを手掛けていましたが、1972年にはセルフサービスのカフェ「コロラド」を開店し、初めて消費者向けの小売業に進出しました。

そして、1980年、東京・原宿に「ドトールコーヒーショップ」1号店をオープンします。当時としては驚異的な「150円コーヒー」という価格設定と、立ち飲みスタイルを取り入れたこの新しい形のコーヒーショップは、瞬く間に若者を中心に人気を集め、日本の喫茶店文化に大きな変革をもたらしました。この成功を皮切りに、スパゲッティ専門店の「オリーブの木」（1985年）や高級志向のカフェ「ル・カフェ・ドトール」（1998年）など、多業態の店舗展開を進め、事業を拡大していきました。また、関連会社である東京マグナ株式会社や株式会社マドレーヌコンフェクショナリーなどの代表も兼任し、多角的な経営手腕を発揮しました。

会社の成長は目覚ましく、2000年には株式会社ドトールコーヒーとして東京証券取引所第一部に上場を果たしました。鳥羽氏は代表取締役社長、代表取締役会長を歴任した後、経営の第一線からは退き、代表権のない名誉会長に就任しました。現在もドトール・日レスホールディングスの主要な株主として、その影響力は健在です。長男の鳥羽豊氏は、かつてドトールコーヒーの社長を務めています。

実業家としての顔だけでなく、社会貢献や郷土への貢献にも熱心です。特に、自身の出身地である深谷市ゆかりの偉人、渋沢栄一の顕彰には力を注いでいます。2020年には、渋沢栄一記念館に展示されている渋沢栄一アンドロイドの開発費用として約4,000万円を寄付し、話題となりました。この功績などにより、2020年には紺綬褒章を受章しています。これに先立ち、2014年には旭日小綬章も受章しています。

経営者としての豊富な経験や哲学は、多くの著作として発表されています。『ドトール ニューマーケット創造の原点』や『想うことが思うようになる努力』、『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』といった著書を通じて、そのユニークな経営思想や逆境を乗り越えるための考え方が広く共有されています。また、テレビ番組「日経スペシャル カンブリア宮殿」に出演し、自身の経営論を語るなど、メディアにも積極的に登場しました。

近年では、政治的な活動への関与も見られました。2024年に行われた東京都知事選挙では、立候補した石丸伸二氏の後援会長を務め、その選挙活動を側面から支えました。石丸氏は現職候補に次ぐ票を獲得し、鳥羽氏の選挙支援も注目を集めました。

鳥羽博道氏は、ブラジルでの原体験に基づいたコーヒーへの深い理解と情熱、そして低価格と高品質を両立させたビジネスモデルによって、日本のコーヒー市場に革命をもたらした傑出した実業家です。経営の第一線から退いた後も、文化支援や政治活動など、様々な分野でその存在感を示し続けており、日本の外食産業史におけるその功績は高く評価されています。

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