鴉 (麻耶雄嵩)

鴉（からす）

麻耶雄嵩による日本の推理小説『鴉』は、1998年度の「本格ミステリベスト10」で第1位に輝いた作品です。

あらすじ

物語の舞台は、地図に載っていない、忘れられた村。その名は、かつて「埜戸（のど）」と呼ばれていました。主人公・珂允（かいん）は、失踪した弟・襾鈴（あべる）の死の真相を追い求め、この謎めいた村へと足を踏み入れます。

しかし、村に足を踏み入れた珂允は、突如として無数の鴉に襲われ、深手を負います。この村は、大鏡様と呼ばれる現人神によって支配され、外界との繋がりを断たれた、閉鎖的で排他的な社会でした。外から来た者は「外人」と呼ばれ、村人から忌み嫌われる存在です。

そんな異質な存在である珂允が滞在する中、大鏡を信奉する有力者・遠臣が殺害されるという事件が発生します。閉ざされた村で起きた殺人事件。鴉の群れ、現人神、そして複雑に絡み合う人間関係。珂允は、数々の謎に翻弄されながら、事件の真相に迫っていくことになります。

登場人物

珂允（かいん）
弟・襾鈴の失踪と死の原因を究明するため、謎の村へとやってきた主人公。幼少期は読書や絵を描くことを好む内向的な少年でした。妻・茅子との結婚後、襾鈴と茅子の関係に疑念を抱き、嫉妬心を募らせます。苦悩の末、2人を解放するため茅子と離婚しました。
襾鈴（あべる）
珂允の1歳年下の弟。兄とは対照的に、幼い頃から活発で甘えん坊な性格でした。放浪癖があり、兄の結婚から2ヶ月後に姿を消し、半年後に帰ってきたものの、その後何者かに殺害されます。村では「庚（かのえ）」という名で知られていました。
メルカトル鮎（メルカトルあゆ）
タキシードとシルクハットを身につけた、謎めいた人物。龍樹家にかくまわれていると自称しています。
千本 頭儀（せんぼん かしらぎ）
無数の鴉に襲われ負傷した珂允を介抱した、村の小長。
千本 冬日（せんぼん ふゆひ）
頭儀の妻。和服が似合う、瓜実顔で整った顔立ちの女性。
橘花（きっか）
11歳の少女。外の世界への憧れを抱き、いつか村を出ることを夢見ています。野長瀬に理解を示す。
菅平 遠臣（すがだいら とおおみ）
大柄な青年で、西の長・菅平家の次男。蝉子の婚約者。近衛になることを夢見ていましたが、庚の出現によりその夢を絶たれます。村の若者たちを率いて、大鏡を信奉する組織「翼賛会」を結成し、珂允を恫喝します。

用語

村
東西を二分する鏡川を挟んで、「西」と「東」に分かれており、それぞれ菅平家と藤ノ宮家が治めています。
* 大鏡（おおかがみ）
村を創ったとされ、現人神として崇められています。山人以外の村人が山へ立ち入ることを禁じており、四方を山に囲まれた村は事実上の鎖国状態にあります。

『鴉』は、閉鎖された空間で繰り広げられる、複雑な人間関係と心理描写が魅力の本格ミステリーです。ぜひ、その独特な世界観を堪能してください。

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