鵜飼 (能)

能『鵜飼』の概要とあらすじ

概要

『鵜飼』（うかい）は、日本の伝統芸能である能の一演目で、五番目物、鬼物、太鼓物に分類されます。この作品は、禁漁の罪を犯した漁師の悲劇、見事な鵜飼の技、そして『法華経』による救済の物語を描いています。元々は摂津猿楽の榎並左衛門五郎によって創作されましたが、後に世阿弥によって改作されたとされています。『申楽談儀』には、その改訂の経過が詳しく記されており、世阿弥の影響を色濃く受けた作品です。

あらすじ

物語は、安房国清澄出身の僧とその従僧が甲斐国石和を訪れるところから始まります。彼らは地元の男に導かれて、川辺の御堂で一夜を過ごすことに決めます。その夜、松明を持った鵜使いの老人が現れ、過去の出来事を語り始めます。老人は、自身がその地で鵜使いとして活躍したが、禁漁の石和川で鵜を使ったため、仲間たちに私刑にされ、簀巻きにされて亡くなったと語ります。なんと、老人の正体はその亡霊でした。

老人は僧の依頼に応じて、自身がかつて行っていた鵜飼の業を披露します。その見事さに引き込まれるうちに、僧は殺生の罪を忘れ、楽しむことになります。しかし、老人はやがて闇の中に姿を消します。

次に、僧たちは地元の男から真実を聞き、川の石に『法華経』の経文を記した後、それを川に沈めて鵜使いの老人を供養します。すると、突然地獄の鬼が現れ、老人が成仏できたことと、それを叶えた『法華経』の功徳を称えながら舞い始めます。

登場人物

• - 前ジテ：鵜使いの老人（腰蓑の装束）
• - 後ジテ：地獄の鬼（小癋見の装束）
• - ワキ：旅僧（出立は着流僧）
• - ワキヅレ：同行の僧（出立は着流僧）
• - アイ：里の男（肩衣半袴の装束）

作者について

『申楽談儀』によると、鵜飼は「榎並の左衛門五郎作」であり、世阿弥が基本的な部分を改作したことが伺えます。世阿弥は、前場のほとんどを観阿弥風に作り直し、さらに鬼の登場を効果的に配置しました。このように、世阿弥は独自の意向を込めて作品に手を加えていったことが示されています。

榎並左衛門五郎の詳細な経歴は不明ですが、摂津猿楽・榎並座の棟梁として活動し、世阿弥と同時代またはそれ以前の人物と考えられています。この座は室町時代にも名を馳せ、多くの演目で重要な役割を果たしました。

解説

『鵜飼』は、鵜飼の技の魅力と共に、命の大切さを訴えかける一作です。本作品は前場だけでも完結するため、榎並左衛門五郎の原作には後場がなかった可能性があります。前ジテと後ジテが異なる存在として描かれ、多様な演出が求められる点が特徴的です。旅僧は日蓮をモデルにしていると考えられますが、具体的な名前が出ない理由については、仏教の広い功徳を表現するためとされます。

この物語が設定された石和川は現在の笛吹川で、地元には鵜飼に関する伝承も多く残っています。例えば、鵜飼勘助の伝説がその一例です。また、江戸時代には多くの演能記録が残され、能楽の発展に寄与しました。現在も、鵜飼の技術は「徒歩鵜」として受け継がれています。

最後に、このように悲劇を題材としつつも、『鵜飼』は仏法の勝利を明るく謳歌する点で他の同テーマの作品とは異なります。

小書と特殊演出

『鵜飼』にはいくつかの小書があります。これらは、前ジテと後ジテの別人格という構造に合わせた演出方法で、創意工夫が凝らされています。中でも、金剛流や観世流による様々な演出法が挙げられます。将来にわたり、これらの演出方法がどのように進化していくかに注目です。

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