鶏卵紙

鶏卵紙：卵白を用いた独特な写真プリント技法

鶏卵紙（けいらんし、英: albumen print）とは、写真プリントの技法の一つで、その名の通り、卵白を材料として用いることが大きな特徴です。1850年、フランスのルイ・デジレ・ブランカール・エブラール氏によって発明されました。

従来の写真印画紙に比べて、鶏卵紙はより強いコントラストを表現できるという利点がありました。そのため、19世紀後半には広く普及し、盛んに利用されるようになりました。しかし、プリントするたびに印画紙を新たに作成する必要があり、手間と時間がかかる点が課題でした。その後、保存性の高い乳剤を用いた印画紙が登場すると、鶏卵紙は徐々に衰退していきました。

それでもなお、鶏卵紙は独特のセピア色の発色と、個人でも制作できる親しみやすさから、現在でも根強い人気を誇ります。特に欧米では、古典的な写真技法を用いた表現方法である「オルタナティブ・プロセス」の一つとして、多くの写真家によって制作され続けています。手間のかかる工程こそが、独特の味わいを生み出していると言えるでしょう。

鶏卵紙写真の具体的な例：明治期の「横浜写真」

明治時代の日本においては、アドルフォ・ファルサーリ氏などの写真家が制作した「横浜写真」が有名です。これらの写真は、単なる写真にとどまらず、熟練の職人によって彩色が施された、まさに芸術作品と言えるものでした。当時、日本を訪れた多くの外国人観光客にとって、貴重な土産物として人気を博しました。

横浜写真は、日本の異国情緒を強調した演出が施されていることが多く見られますが、同時に、当時の日本の風俗や人々の暮らしを伝える貴重な歴史資料でもあります。現在、これらの写真を見ることで、私たちは100年以上前の日本にタイムトリップし、当時の文化や社会の様子を垣間見ることができるのです。

鶏卵紙の材料と制作工程

鶏卵紙を作成するために必要な主な材料は、以下の通りです。

ケント紙：印画紙のベースとなる紙。厚みと耐久性のあるものが適しています。
卵白：写真の感光剤を定着させるための重要な材料。新鮮な卵白を使用することが大切です。
塩化ナトリウム：卵白を安定させるための添加剤。
硝酸銀：写真の感光剤。光に反応して画像を形成します。
チオ硫酸ナトリウム：定着液の主成分。写真の画像を安定化させます。
蒸留水：精製された水。不純物が混入すると、写真の品質に影響を与えるため、蒸留水を使用することが推奨されます。

これらの材料を用いて、丁寧に時間をかけて制作することで、独特のセピア色の美しい鶏卵紙写真が完成します。その工程は複雑で、高度な技術と知識が求められますが、完成した写真の美しさは、その苦労をはるかに凌駕すると言えるでしょう。

鶏卵紙に関する参考文献

鶏卵紙の制作方法や歴史についてより深く知りたい方には、以下の書籍がおすすめです。

* 荒井宏子『手作り写真の手引き』写真工業出版社

この本では、鶏卵紙を含む様々な手作り写真の技法について、詳細な解説がされています。写真愛好家にとって、非常に役立つ一冊と言えるでしょう。

鶏卵紙：現代への継承

手間のかかる工程、独特のセピア色、そして歴史的価値。鶏卵紙は、単なる写真プリント技法という枠を超え、芸術作品、そして歴史的資料としての価値も併せ持っています。現在でも、多くの写真家によって制作され続け、その技術と美しさは、未来へと受け継がれていくことでしょう。鶏卵紙のレシピはインターネット上でも公開されているため、興味のある方は挑戦してみるのも良いかもしれません。

もう一度検索