鹿塩駅

幻の駅、鹿塩駅：太平洋戦争と消えた通勤路線

兵庫県宝塚市、かつて阪急今津線に存在した鹿塩駅をご存知でしょうか？ この駅は、太平洋戦争下の1943年12月15日に開業、わずか2年足らずで姿を消した、短い歴史を持つ駅です。現在ではその面影すら残っておらず、多くの人の記憶から薄れつつありますが、その存在は、戦争と産業、そして地域の変遷を物語る重要な歴史の一部となっています。

軍需工場へのアクセス拠点として

鹿塩駅の開業は、現在の阪神競馬場付近にあった川西航空機宝塚製作所（現在の新明和工業）の通勤客輸送を円滑にするための緊急措置でした。 当時、軍需産業は拡大の一途を辿っており、膨大な数の労働者が工場に通勤していました。 この状況に対応するため、既存の小林駅と仁川駅の中間地点に、急遽鹿塩駅が開設されたのです。

駅は相対式ホームを備えた簡素な構造だったと伝えられています。 営業時間は通勤時間帯の朝夕のみでしたが、利用客数は膨大で、ピーク時には一日4万人を超えたと言われています。これは、戦争という非常事態下における、軍需産業の活況を如実に示す数字と言えるでしょう。 金龍寺の裏手という、静かな住宅街の一角に、活気あふれる通勤ラッシュが繰り広げられていた様子を想像すると、不思議な対比を感じます。

戦火と廃駅

しかし、鹿塩駅の短い歴史は、戦争の終焉と共に幕を閉じます。1945年7月24日、工場周辺は激しい空襲を受け、壊滅的な被害を受けました。 そして8月15日、終戦を迎えます。 川西航空機は軍需工場としての役割を終え、鹿塩駅もその使命を終えたと判断されました。同年9月21日、鹿塩駅は正式に廃駅となりました。わずか2年弱の営業期間でした。

終戦後、阪神競馬場が建設され、川西航空機（現・新明和工業）への通勤輸送は仁川駅に集約されました。 鹿塩駅の跡地には、かつての面影として古枕木が積み重ねられていたそうですが、2020年にはそれも撤去され、完全に痕跡が消え去りました。 今となっては、写真や記録などわずかな資料を頼りに、その存在を確認するしかないのです。

消えた駅が伝えるもの

鹿塩駅は、戦争という特殊な状況下で生まれた、短い命の駅でした。 その存在は、戦時下の日本の産業構造や、人々の生活、そして戦争の残酷さを物語っています。 駅跡が完全に消滅したことは、過去を風化させる危険性も孕んでいますが、同時に、私たちは過去を学び、未来へ活かすという重要な役割を改めて認識する必要があります。 鹿塩駅の歴史は、二度と繰り返してはならない悲劇を、静かに語り継いでいると言えるでしょう。 残された記録を大切に、未来へと伝えていくことが、私たちに残された使命と言えるのかもしれません。

沿革

1943年（昭和18年）12月15日：開業
1945年（昭和20年）9月21日：廃駅
* 2020年（令和2年）：跡地撤去

隣の駅

京阪神急行電鉄 今津線
小林駅 - 鹿塩駅 - 仁川駅

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