鹿嶋敬

鹿嶋 敬（かしま たかし、1945年生まれ）は、日本の社会学者であり、元ジャーナリストである。専門は、女性労働、男女共同参画、ジェンダー論、家族社会学、ワーク・ライフ・バランス論、マスコミュニケーション論など多岐にわたる。長年、社会の現場でジャーナリストとして取材活動を行い、その後研究者、そして政策形成に関わる社会活動家として、日本の社会構造、特に労働とジェンダーの問題に深く関わってきた人物である。

ジャーナリストとしての足跡

1969年に千葉大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。記者として活動を開始し、特に「女性と労働」というテーマに焦点を当て、精力的に取材を進めた。男女雇用機会均等法の制定過程など、当時の社会変革の動きを最前線で追い、記事を通じて社会に問題提起を行った。編集局では生活家庭部長、編集局次長兼文化部長、編集委員兼論説委員といった要職を歴任し、言論人としても大きな影響力を持った。日経新聞での活動は、彼の後の研究や社会活動の礎となった。

研究者への転身と教育

日経新聞社を定年退職した後、それまでの豊富な現場経験と知見を活かし、研究者の道へと進んだ。2005年からは実践女子大学人間社会学部教授として、社会学の視点から女性労働やジェンダーに関する教育・研究に従事。次世代の研究者や社会人育成に貢献した。2015年に同大学を定年退職した後も、その専門性を活かした活動を続けている。

社会活動と政策への貢献

研究活動と並行して、日本の男女共同参画社会の実現に向けて多方面で積極的に活動を展開している。2005年から2017年まで、政府の重要会議である男女共同参画会議の議員を務め、政策立案や施策の監視に深く関与した。特に、第4次男女共同参画基本計画の策定に携わる計画策定専門調査会の会長や、国の男女共同参画行政を監視する監視専門調査会の会長などを歴任し、国の根幹に関わる政策形成に中心的な役割を果たした。

また、一般財団法人女性労働協会では会長として、ファミリーサポート事業の推進や女性の活躍促進などに取り組んだ。その他にも、次世代のための民間運動～ワーク・ライフ・バランス推進会議やワーキングウーマン・パワーアップ会議の代表幹事、国立女性教育会館監事などを務め、民間や公的な立場から様々な社会運動や事業に関わってきた。東京都や豊島区をはじめとする多くの自治体でも、男女共同参画に関連する審議会委員や会長を務め、地域レベルでの社会づくりにも尽力した。これらの活動を通じて、鹿嶋氏は日本のジェンダー平等や多様な働き方の実現に向けた社会的な議論と具体的な政策推進に多大な貢献をしている。

著述活動とメッセージ

長年のジャーナリスト、研究者、社会活動家としての経験を基に、多くの著作を発表している。『男と女 変わる力学』、『男女共同参画の時代』、『なぜ働き続けられない? 社会と自分の力学』といった単著や、様々なテーマに関する共編著を通じて、社会の現状分析や未来に向けた提言を行っている。その著作は、専門家だけでなく一般読者にも分かりやすい言葉で、現代社会が抱える課題、特にジェンダーや労働の問題を深く掘り下げている。

個人的な悲劇とそれを乗り越える力

2008年には、結婚を控えていた娘の恵里子氏を、ボリビアでの痛ましい交通事故で失うという大きな悲劇に見舞われた。この深い悲しみの中で、彼は写実画家である諏訪敦氏に娘の肖像画制作を依頼した。娘への鎮魂の思いを込めて描かれた作品「恵里子」は、その制作過程がNHKのテレビ番組「日曜美術館」で紹介され、多くの人々の感動と共感を呼んだ。この個人的な経験は、彼の人間的な深みを増し、後の社会活動にも影響を与えたと考えられる。

栄誉

社会に対する長年の貢献が認められ、2017年には男女共同参画社会づくり功労者として内閣総理大臣表彰を受章。そして2018年春には、旭日中綬章という栄誉に浴している。これらの受賞は、彼がジャーナリスト、研究者、社会活動家として果たしてきた役割の重要性を示すものである。

鹿嶋 敬氏は、ジャーナリストとして社会の課題を問い、研究者としてその構造を分析し、そして社会活動家として具体的な変革を推進するという、多角的なアプローチで日本の社会に貢献してきた稀有な存在である。その活動は、日本の労働環境、家族観、そして男女のあり方に大きな影響を与え続けている。

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