黄泉の犬

『黄泉の犬』について

藤原新也の『黄泉の犬』（よみのいぬ）は、1995年から1996年にかけて『週刊プレイボーイ』で連載された随筆を元に、2006年に文藝春秋社から出版されました。本書は、彼の探求的な旅を描いた作品であり、特に麻原彰晃とその出身地にまつわる考察が展開されています。

内容の概要

本書は、著者が富士山の疲弊した姿をテレビで見たことから始まります。この光景を通じて麻原彰晃という人物に興味を抱いた著者は、彼の故郷である熊本県八代を訪れ、その足跡を辿ることにします。彼は、麻原の兄との接触を試み、彼の育った環境や背景について探求します。

解析の重点は、麻原の精神的および肉体的な障害が彼の人格形成や教団の活動にどのように影響を与えたのかという点に置かれています。特に、麻原が経験した世間からの忌避や、自身の病歴がどのように彼の怨恨や憎悪と結びついたのかを追求します。また、この絡み合った因果関係が、オウム真理教の事件につながるのではないかという疑念も描かれています。

著者は、麻原の兄が運営する松本鍼灸院を訪ねる中で、麻原がどのようにその特殊な身体的条件を受け入れ、教団の教義と結び付けていったのかを明らかにしようとします。しかし、兄との面会が叶わなかった著者は別の道を模索します。

水俣病との関係

そこで著者は新たな仮説を立てます。それは、麻原の視覚障害が水俣病に関連しているのではないかというものでした。水俣病は、熊本県の水俣市で発生した公害であり、その影響で多くの人々が苦しみました。著者は、麻原自身がこの病気との関連を持っているかもしれないと考え、さらなる資料を調査し、専門家との対話を試みることになります。

特に、東京に帰った後、著者は水俣病に関する文献を読みち、著名な弁護士である後藤孝典と会う機会を得ます。後藤との対話を通じて、麻原の目の疾患が国家や天皇に対する憎悪と結びつくことはないとの意見を受け取り、この仮説は否定されますが、その後の展開にも大きな影響を与えます。

麻原の兄との再会

最終的に、奇遇なことから著者は麻原の長兄と会う機会を持ちます。この面会では麻原が幼少期に水俣病患者としての苦汁を味わっていた事実や、その後の困難な時期について聞くことができました。兄からは、麻原が水銀に汚染された魚介類を多く食べていたという衝撃的な発言もあり、このことが彼の生涯においてどれほどの影響を与えたのかを知ることになりました。

自己保存のための現実逃避

藤原は本書を通じて、麻原の誇大妄想や行動が現実を直視できない自己保存の一形態であるとの見解を示します。彼の探求は、宗教や信仰の本質、そして社会との関わりを再考させる要素が満ちており、また、著者自身が直面した疑問と向き合う姿勢が強調されています。

結論

『黄泉の犬』は、単なる随筆に留まらない深い探求の記録であり、藤原新也が体験した旅路を通じて得られた様々な知見と感慨が詰め込まれています。麻原彰晃という複雑な人物に対する理解を深めるための貴重な教訓が提示され、読者に強く訴える内容となっています。

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