黒い罠

『黒い罠』について

『黒い罠』（くろいわな、原題: Touch of Evil）は、1958年に公開されたアメリカのフィルム・ノワールです。監督はオーソン・ウェルズが務め、物語はアメリカとメキシコの国境地帯で展開されます。作品の中心には、悪徳警官ハンク・クインランとメキシコ人麻薬捜査官ラモン・ミゲル・ヴァルガスの対立があり、二人はそれぞれの正義や立場を巡って激しくぶつかります。

製作背景

本作はホイット・マスタースン著の探偵小説『黒い罠』が原作ですが、ウェルズは当初俳優として参加する予定でした。しかし、チャールトン・ヘストンの提案により、監督も担当することになったのです。ウェルズは脚本の執筆も並行して進め、原作の主人公の国籍を逆にするなどの設定変更を行い、物語を新たな形で紡ぎました。映画の撮影はロサンゼルスのヴェニス地区で行われ、その当時の荒廃した街並みが舞台設定に生かされています。

撮影の難航とトラブル

撮影は約90万ドルの予算で39日間にわたりましたが、完成したフィルムはユニヴァーサル・ピクチャーズの幹部により不評を買い、独断で再編集されることになります。この変更にウェルズは激怒しましたが、スタジオは彼の意見を無視し、最終的には短縮された96分バージョンが劇場公開されました。しかし、この劇場公開版は興行的に失敗。注目されることはありませんでした。

一方、映画は1960年代に入ると新たに評価されるようになり、特に若い映画製作者たちに再評価されていきました。また、1998年にはウェルズのメモを基にしたディレクターズ・カットが公開され、多くの支持を受けることとなります。

ストーリーの展開

物語は、アメリカとメキシコの国境に位置する町で始まります。麻薬捜査官ラモン・ミゲル・ヴァルガスとその妻スーザンは、地元の有力者の車が爆発するのを目撃します。事件の捜査を始めたヴァルガスですが、現場に現れたのはクインランと名乗る肥満した老刑事。彼は事件を担当するが、彼の手法には疑問が生じることとなります。ヴァルガスはクインランの不正を突き止めようと奮闘しますが、様々な妨害に直面します。

一連の事件が進展する中で、クインランはヴァルガスの妻を標的にし、彼の名声を失墜させようとします。最終的には、妻スーザンが誘拐される事態にまで発展します。ヴァルガスは妻を救うために行動を起こし、真実を求めて奔走します。

映画技術と評価

『黒い罠』はその映画技術においても高い評価を受けています。特に冒頭の長回しは映像表現の新しい境地を示し、多くの映画製作者に衝撃を与えました。また、作品で用いられた音響技術やBGMの利用も革新的で、その後の映画にも影響を与えたとされています。

初めは評価されなかった作品ですが、現在ではカルト映画として認識されるようになり、アメリカ国立フィルム登録簿にも登録されるほどの名作となりました。『黒い罠』は、ウェルズの才能やその悲劇的な裏話も併せて、多くのファンを魅了し続けています。

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