黒岩眞吾

黒岩 眞吾

黒岩 眞吾（くろいわ しんご、1964年生まれ）は、日本の著名なコンピュータ科学者であり、工学博士の学位を有しています。現在、千葉大学大学院の工学研究院にて教授を務めており、大学院の融合理工学府情報科学コースおよび工学部の情報工学コースで教育・研究活動を行っています。また、かつては産業連携研究担当の副理事（2015年から2019年）として、千葉大学における産学連携の研究推進ステーションの活動にも深く関与しました。さらに、電子情報通信学会のヒューマンコミュニケーショングループ運営委員長を2013年に務めるなど、学会活動も積極的に行っています。

業績概要

黒岩氏のキャリアは、日本国内での音声認識技術が実用化段階に入った1990年代に始まりました。KDD研究所（現在のKDDI総合研究所）において、革新的な音声認識システムの開発に取り組みました。特に代表的な成果物として、大量の電話を処理する商用システムに応用されたものがあります。例えば、一日あたり約1万件の電話を処理する「ジャパンダイレクト向けいたずら電話排除システム」や、内線電話受付を自動化するシステムなどの実用化に貢献しました。これらのシステムは、当時の商用音声認識技術としては画期的な性能を示し、日本音響学会の技術開発賞を受賞するなど、その貢献は高く評価されています。2001年に徳島大学へ異動した後も、(株)国際電気通信基礎技術研究所（ATR）での研究活動に関与し、後にNTTドコモの「しゃべって翻訳」など、今日の分散型音声認識技術の基盤となる技術開発にも携わりました。

千葉大学に移ってからは、学術研究だけでなく、具体的な社会実装を目指した産学連携プロジェクトにも力を入れています。一例として、2011年12月に東京ベイ通信(株)がレンタルを開始した携帯型通訳デバイス「スマート通訳ポン」の開発監修に携わりました。また、(株)エスコーアルとの連携を通じて、失語症を持つ人々のための言語訓練装置の開発にも参加するなど、医療・福祉分野への技術応用も積極的に推進しています。

研究哲学と福祉情報工学

黒岩氏は、「工学は人々の生活を豊かにするために存在する」という強い信念に基づき、大学における研究開発においても一貫して実用性を重視しています。特に、地域の中小企業との連携を積極的に行い、既存の技術（アルテク）を活用した福祉情報工学機器の開発に注力しています。これは、最先端技術を追求するだけでなく、既に確立された技術を工夫して活用することで、より多くの人々、特に支援を必要とする人々の生活の質の向上に貢献することを目的としています。

失語症者向け訓練・支援技術の開発

福祉情報工学の取り組みの中でも、失語症を持つ人々のための訓練および支援技術開発は黒岩氏の研究室の重要なテーマの一つです。これまでに、Android端末上で動作する言語訓練アプリケーション「ActVoice Smart」や、質問応答を通じて記憶の想起を支援するアプリケーションなどを開発しています。特に「ActVoice Smart」は、(株)エスコアールによって製品化され、2017年2月からはGoogle PlayおよびApp Storeで無料アプリとして公開されています（ただし、App Store版はOSのバージョンアップに対応していない時期もありました）。

また、2014年からは(株)ロボキュアと共同で、人型ロボットであるPepperを利用した言語訓練ロボットの開発も試みました。しかし、Pepperが当初の想定よりも高価なプラットフォームとなったため、一般家庭への普及が困難であると判断されました。この経験を経て、よりアクセスしやすいプラットフォームへと開発方針が転換され、現在はタブレット端末を用いた言語訓練アプリ「ハナセル」および言語訓練管理ソフト「リハマネ」として商用サービスが提供されています（2019年8月12日時点）。これらの技術開発は、失語症を持つ人々が自宅や施設で効果的な訓練を行えるようにすることを目指しています。

黒岩氏の一連の研究開発活動は、音声認識技術の応用から、社会的な課題解決を目指す福祉情報工学まで多岐にわたり、常に技術の実用化と社会への貢献を追求しています。

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