黒木博

黒木 博（くろき ひろし、1907年2月10日 - 2001年12月24日）は、日本の政治家であり、長きにわたり宮崎県知事を務めた人物です。宮崎県宮崎市の出身で、宮崎県立高鍋農学校を経て、宇都宮高等農林学校（現在の宇都宮大学農学部）を卒業しました。

学窓を終えた後、黒木氏は故郷の宮崎県庁に入庁し、公務員としてのキャリアを歩み始めます。県庁内では、県民政労働部長や総務部長といった要職を経験し、中央省庁では農林大臣秘書官も務めるなど、行政手腕を培いました。1955年には宮崎県副知事に就任し、県政の運営に深く関わることになります。

1959年、黒木氏は宮崎県知事選挙に立候補し、見事初当選を果たしました。以後、約20年間にわたる在任期間中、彼は通算6期連続で知事の座を守り続け、その間に宮崎県の振興に多大な貢献をしました。

宮崎県の発展への寄与

黒木氏の知事時代の主な実績として特筆されるのは、現在の宮崎県が「農業県」としての地位を確立する上で果たした役割です。自然災害の多い県の地理的特性を踏まえ、災害に強い農作物品種の開発を積極的に推進しました。また、農業生産性の向上と農家の経営安定化を目指し、「SAP（農業繁栄のための学修活動）」を提唱・普及させました。これは、農家が互いに技術や知識を学び合う実践的な研修システムであり、宮崎農業の質的向上と近代化に大きく貢献しました。

さらに、黒木氏は宮崎県を全国有数の一大観光地へと発展させた立役者の一人でもあります。当時の知事としては先進的な視点で、景観保護や環境保全の重要性に着目し、関連条例の制定などによって美しい自然を守り育むための施策を打ち出しました。特に、宮崎の観光開発に情熱を注いだ実業家の岩切章太郎氏と連携し、宮崎の豊かな自然を生かした観光振興を強力に推進しました。これらの取り組みは、現在の宮崎県の主要産業である観光業の揺るぎない基盤を築いたと言えます。

これらの長年にわたる県政への貢献と実績は、国内外から高い評価を得ました。黒木氏は、「アジアのノーベル賞」と称されるマグサイサイ賞を受章したほか、1991年には日本国から最高位の勲章の一つである勲一等瑞宝章を授与されています。

黒木事件と無罪の確定

しかし、その華々しい政治家人生の晩年は、一つの大きな事件によって波乱に満ちたものとなりました。通算6期目の知事当選を果たした直後の1979年、黒木氏はトンネル工事を巡る受託収賄の疑いで逮捕され、知事の職を辞任せざるを得なくなりました。これが世にいう「黒木事件」です。彼は建設業界から3000万円の賄賂を受け取ったと疑われました。

この事件に関する裁判では、一審で有罪判決が言い渡されました。しかし、黒木氏は一貫して無実を主張し続けました。その結果、二審では一審判決が覆され、逆転無罪判決が言い渡されます。そして、長い法廷闘争の末、1988年に最終的に無罪が確定しました。ただし、裁判の過程では、受け取った金銭に賄賂性は認められないと判断された一方で、建設業界から3000万円の金銭授受があった事実、およびその使途に関する黒木氏自身の供述の信用性が否定された点も認定されています。事件が大きな社会的な関心を集める中で、黒木氏が発したとされる「真実は一つ」という言葉は、当時の人々の記憶に深く刻まれています。

無罪確定後、黒木氏が再び政治の表舞台に立つことはありませんでしたが、知事として残した功績は多くの人々に記憶されています。2001年12月24日、肺炎のため宮崎市内の病院にて死去。享年94歳でした。黒木博氏は、宮崎県の農業と観光の発展に尽くした偉大な政治家であると同時に、汚職事件で逮捕されながらも最終的に無罪を勝ち取ったという、波乱に満ちた人生を送った人物として、郷土史にその名を残しています。

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