黒浜式

黒浜式土器：縄文前期の関東地方を彩る土器様式

黒浜式土器は、約5,500年前の縄文時代前期に関東地方で用いられた土器の型式名です。その名は、埼玉県蓮田市に位置する黒浜貝塚を標式遺跡とすることに由来します。この土器様式は、縄文時代の文化や技術を知る上で重要な手がかりとなります。

発見と命名の経緯

黒浜式土器の研究は、1913年から1931年頃にかけて大山史前学研究所が行った黒浜貝塚の発掘調査に端を発します。この調査で出土した土器は、当初「蓮田式」として提唱されました。その後、1935年に甲野勇によって「蓮田式」の後半部分が、黒浜式として独立した型式として提唱されました。

黒浜式土器の特徴

黒浜式土器は、その特徴的な胎土と文様によって識別されます。

胎土: 胎土には多量の繊維が含まれていることが多く、焼成によって炭化した繊維が断面を漆黒色に染めます。ただし、時代が下り諸磯式に近づくにつれて、繊維の含有量は減少する傾向が見られます。
器形: 器形は深鉢が主体で、底部は平底または上げ底です。口縁部は波状または平縁で、体部は直線的に立ち上がるものや、口縁部が外反して胴部が張り出すものがあります。
文様: 関山式土器と同様に、羽状縄文が特徴的です。羽状縄文とは、右撚り（Z撚り）と左撚り（S撚り）の撚り紐を使い、鳥の羽のように縄文を施文する技法、施文された状態のことを指します。黒浜式土器の場合、複節や複々節といった複雑な縄をあまり使用しないため、縄文が断面カール状の沈線に見えることがあります。また、沈線文、竹管文、隆帯文、爪形文なども見られます。沈線文は簡略化される傾向にあり、竹管文や貝殻文といった独特の施文技法も用いられています。

関山式土器との比較

黒浜式土器は、同時期の関山式土器と共通する特徴を持ちながらも、いくつかの相違点が見られます。

胎土: 黒浜式土器の胎土は、関山式土器に比べて脆弱な傾向があります。
文様: 羽状縄文は共通していますが、黒浜式土器では縄文が沈線状に見える場合があるなど、文様の表現に違いが見られます。

縄文時代の文化と技術

黒浜式土器は、縄文時代前期の関東地方における文化や技術を知る上で貴重な資料です。土器の形態や文様、胎土の分析を通じて、当時の人々の生活様式、技術水準、他の地域との交流などを推測することができます。特に、繊維の使用や羽状縄文の施文技術は、当時の人々の創意工夫を示すものとして注目されています。

黒浜式土器の研究は、縄文時代の文化や社会の解明に貢献するとともに、日本の土器研究における重要な一歩となっています。

参考

繊維土器
* 縄文海進

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