黒澤進

黒沢進（くろさわ すすむ）

1954年9月5日に生まれ、2007年4月19日に逝去（享年52歳）。日本の音楽評論家であり、特にグループ・サウンズ（GS）の研究家として、その分野のパイオニアとして活躍しました。GSのみならず、ロカビリーやフォークなど、1960年代を中心とした日本のポップス史に関する評論や解説を専門としていました。

GS研究における貢献

黒沢氏の最大の功績は、GSに関する独自の視点と概念を生み出したことにあります。全盛期に登場しながらも広く知られずに終わったグループを『B級GS』（あるいは『カルトGS』）と名付け、その存在に光を当てました。また、ソロ歌手によるGS風楽曲を『一人GS』と称するなど、新たな切り口でGSを分類・評価しました。

これらの概念に基づき、埋もれていた和製ポップスの音源発掘に積極的に取り組み、多くの作品が再評価されるきっかけを作りました。さらに、GSの元メンバーへの証言採集にも力を注ぎ、貴重な歴史的資料の保全に貢献しました。

来歴と音楽への情熱

秋田県に生まれた黒沢氏は、中学時代に到来したGSブームに熱中しました。「日本語で洋楽らしい音楽が聴ける」というGSの魅力に取りつかれ、当時から関連情報を熱心に記録していました。この記録活動の動機について、後年「子供心に『これは将来残すべきだ』という予感があった」と語っています。特に、あまり知られていないマイナーなGSに強い関心を寄せていました。

1970年代に入りGSブームが終息すると、一時的に音楽への関心が薄れます。しかし、早川義夫や高田渡といったアーティストは別格であり、特にジャックスへの愛着から、1970年代のURC系フォークに関する評論も多く手掛けました。

1980年代にGSへの情熱が再燃し、本格的な研究活動に入ります。1982年から1985年にかけて、自費出版で『資料 日本ポピュラー史研究』を刊行し、その後の研究の基礎を築きました。1986年には徳間書店から『熱狂! GS図鑑』を上梓。これは、有名無名を問わず多くのGSのディスコグラフィーを網羅した集大成であり、「B級GS」や「一人GS」といった概念が広く知られる契機となりました。1992年からは、『カルトGSコレクション』シリーズの監修と解説を担当し、多くの「B級GS」楽曲を世に送り出しました。

1994年には、自主制作盤などの新たな情報を含めて増補した『日本ロック紀GS編』をシンコー・ミュージックより出版。この頃には、GSが海外で再評価されたり、ガレージロックとの類似性が指摘されたりする状況も踏まえ、「GSは日本独自の音楽形態」という視点から一歩進んで、「世界に通用するGS」を積極的に探求する姿勢を示すようになります。

2000年代に入ると、既発音源のCD化が進んだこともあり、未発表音源や、映画のために録音された別テイク音源の発掘に注力しました。

GSの定義と評価基準

黒沢氏が提示したGSの定義は、ビートルズなどの欧米音楽に影響を受けた「ボーカル・アンド・インストゥルメンタルグループ」という形態を基本としていました。その「起源」を1966年初頭（ジャッキー吉川とブルーコメッツやザ・スパイダースがポップス志向のオリジナルを発表した頃）とし、「終期」を1970年頃と位置付けました。具体的には、1966年から1969年にかけてデビューしたグループを中心に紹介しています。

また、自身の定義から外れるグループ（例：歌謡曲的、ロック/R&B/前衛的、カレッジ・フォーク、アイドル的コーラス、時期外れ）は、GSとは見なさないとして著作への掲載を除外していました。

黒沢氏は、GS初期（特に1966年～1967年）の「日本的な制約の中で行われた洋楽志向」に強い魅力を感じており、この時代のグループを特に高く評価しました。その反面、1968年後期から顕著になったGSの「歌謡曲化」（従来の歌謡曲への接近）に対しては、洋楽志向というGS本来の魅力を損ない、ジャンル衰退の一因となったとして批判的な見解を示す傾向がありました。しかし、晩年には歌謡曲化した作品にも「違った魅力がある」と、以前よりも柔軟な評価を見せるケースもありました。

黒沢氏の研究と評論は、日本のGS史に明確な光を当て、多くの埋もれた才能や楽曲を現代に伝える上で極めて重要な役割を果たしました。その業績は、現在も多くの音楽ファンや研究者に影響を与え続けています。

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