黒猫館の殺人

黒猫館の殺人：記憶喪失と過去の影が交錯する館シリーズ第六作

綾辻行人による人気推理小説シリーズ「館」シリーズの第六作目、『黒猫館の殺人』は、1990年6月、稀譚社の編集者である江南孝明のもとに届いた一通の手紙から物語が始まります。差出人は鮎田冬馬。その手紙には、謎めいた言葉が記されていました。「鹿谷先生とお会いし、お話をお聞きしたい」。

すぐに鮎田から電話がかかってきます。電話で彼は、2ヶ月前に滞在していたホテルが全焼し、記憶喪失になったと打ち明けます。唯一覚えているのは、自身が書いたと思われる手記に記された名前のみ。その手記には「黒猫館」という、彼がかつて管理人を務めていた屋敷のことが記されていました。そして、黒猫館の設計者こそが、数々の悲劇の舞台を生み出してきた悪名高い建築家、中村青司であることを知った江南は、強い不吉感を覚えます。過去に中村青司が設計した建物で起きた数々の惨劇、そして自身も巻き込まれた数々の事件の記憶が蘇ってきたのです。

江南は、推理作家の友人である鹿谷門実に連絡を取り、鮎田の手記を一緒に読みます。手記には、黒猫館で起こった殺人事件の恐るべき詳細が綴られていました。事件の真相解明のため、彼らは手記を頼りに、北海道の札幌、そして阿寒へと旅立ちます。

主要登場人物

鮎田冬馬: 黒猫館の元管理人で、現在記憶喪失。左半身不随の症状も抱えています。手記によると、黒猫館では愛猫のカーロと共に、世捨て人同然の生活を送っていたようです。
風間裕己: 黒猫館の現在の所有者の息子。M大学商学部の学生で、ロックバンド「セイレーン」のギタリスト。東京で一人暮らしをしています。バンド解散記念旅行で、友人達と共に黒猫館を訪れます。
氷川隼人: 裕己の従兄。T大学大学院理学部形態学の学生。「セイレーン」のピアニストで、異端の生物学者だった天羽博士が建てた黒猫館に興味を示します。
木之内晋: 裕己の友人。三流私大の学生で「セイレーン」のドラマー。
麻生謙二郎: 裕己の友人。三流私大の学生で「セイレーン」のベーシスト。オカルト好き。
椿本レナ: 旅行者で、裕己と晋に誘われ、黒猫館に宿泊することになります。
天羽辰也: 元黒猫館の持ち主で、進化論専門の生物学者。オーストラリア留学後、H大学助教授を務めていたが、問題を起こし大学を追われ、現在は消息不明。
天羽理沙子: 辰也の姪で養女。消息不明。
神代舜之介: 中村青司の師事した元T大学教授で、天羽辰也の友人。
橘てる子: H大学教授で、天羽辰也の元同僚。
江南孝明: 稀譚社の編集者。鮎田冬馬からの依頼を受け、鹿谷門実に連絡を取る。
鹿谷門実: 推理作家。本名は島田潔で、九州にある寺の三男坊。代表作は『迷路館の殺人』。

事件の謎

鮎田冬馬の記憶喪失、黒猫館という不気味な屋敷、そして中村青司という建築家の影。これらの要素が絡み合い、複雑で謎めいた事件へと発展していきます。物語は、過去の出来事と現在の出来事が複雑に絡み合い、読者を深い謎へと誘います。札幌と阿寒を舞台に展開する調査を通して、徐々に明らかになる黒猫館の真実。そして、最後に待ち受ける衝撃の結末は、読者に忘れられない読書体験を与えてくれるでしょう。

館シリーズとの繋がり

『黒猫館の殺人』は「館」シリーズの第六作目であり、これまでの作品と同様に、緻密な構成と巧妙なトリック、そして独特の世界観が魅力です。シリーズを通して登場する中村青司の影は、物語に一層の深みを与えています。シリーズ作品を全て読んだ読者には、より深い理解と満足感が得られるでしょう。

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