黒田秀忠

黒田秀忠（くろだ ひでただ）

黒田秀忠は、戦国時代の越後国に拠点を置いた武将です。黒滝城を居城としていました。越後国の実力者であった守護代、長尾為景から厚い信頼を得て、守護上杉定実の家臣であった黒田長門守の養子となり、黒田家を継承しました。

通説

為景の後を継いで長尾家の当主となった長尾晴景は、病弱で家中の統率に苦慮していました。秀忠はこれに乗じて独立を図ったとされ、天文14年（1545年）には、晴景の弟である長尾景康や長尾景房らを殺害し、同年10月に反乱を起こします。しかし、晴景のもう一人の弟である長尾景虎（後の上杉謙信）の命を受けた村山与七郎による居城・黒滝城への攻撃を受け、一旦は降伏しました。

翌天文15年（1546年）2月、秀忠は再び反旗を翻しますが、今度は長尾景虎自らが軍を率いて黒滝城を攻めました。秀忠は敗れ、一族と共に自刃に追い込まれたとされています。この一連の反乱鎮圧における活躍により、長尾景虎の武名は越後国内で一躍高まりました。

新説と時期に関する考察

黒田秀忠の反乱とその終結時期については、残されている史料が少なく、年次が明確でないものが多いため、古くから諸説が存在しました。最初の反乱時期についても、『上杉家御年譜』では天文12年、『上越市史』では天文13年、『新潟県史』では天文14年と、史書によって記述が異なっていました。そのため、秀忠が景虎に滅ぼされた時期についても、通説とされる天文14年や天文15年の他に、天文16年とする説なども存在し、確定されていませんでした。

年次不明の史料のうち、直接的に黒田秀忠の反乱に言及しているものとして、長尾景虎が村山与七郎に送った某年10月12日付の書状と、小河右衛門佐に送った某年2月28日付の書状の2通があります。前者の書状には「黒田の不穏な動きに対して府内（春日山）で（上杉氏家臣の）桃井氏と相談し討伐を決めた」ことが記され、後者には「前年秋に黒田和泉守（秀忠）を成敗しようとしたが、出家して他国へ向かうとのことで助命したものの、再び反逆したため御屋形様（上杉定実）の許可を得て、黒田一族を皆殺しにした」と記されています。これらの書状の内容から、「某年10月に反乱を起こして一時降伏し、翌年2月に再度の反乱を起こして長尾景虎が上杉定実の同意を得て滅ぼした」という事件の流れが推定できます。

しかし、越後の人々が高野山清浄心院に供養を依頼した記録をまとめた『越後過去名簿』という文書の中に、天文16年（1547年）7月15日に「黒田和泉守とその妻が自分たちの生前供養（逆修供養）を依頼した」との記述が見つかりました。当時の越後で黒田和泉守を名乗っていたのは黒田秀忠しかいないと考えられており、この記録が事実であれば、天文16年7月15日時点でも黒田秀忠は存命していたことになります。これは、通説を含め、それまでの天文14年や天文15年に秀忠が滅亡したとする説全てと矛盾する決定的な史料となります。

この『越後過去名簿』の記録を否定できないことから、黒田秀忠の反乱は天文16年7月15日以降に発生した出来事と考えざるを得なくなりました。当初、研究者の今福匡氏は、反乱を天文16年秋から翌年2月の事件と位置付けました。その後、前嶋敏氏が、小河宛の書状にある「旧冬当地へ相移候処」という記述を、長尾景虎が長尾家の家督を継承し、春日山城へ入った天文17年（1548年）12月30日を指すものと解釈し、反乱時期を天文17年秋から翌年2月とする説を提示しました。今福氏もこの前嶋説に同意し、自説を訂正して以降の著作では天文17年説を主張しています。

前嶋氏や今福氏、さらに研究者の福原圭一氏らは、黒田秀忠の反乱を単なる謀反ではなく、当時の長尾氏の家督継承問題と関連付けて捉えています。秀忠は病弱な晴景政権における重臣であり、長尾景虎への当主交代に強く反対して反乱を起こした事件であると位置付けています。また、景虎が秀忠を滅ぼす際に、当時の当主である兄・晴景ではなく、越後守護の上杉定実から許可を得ている点についても、上杉定実が景虎の家督継承を後押しする立場にあったことを示す傍証であると考えています。このように、近年の研究により、黒田秀忠の乱は長尾氏の権力構造の変化と密接に関わる事件として、その時期と背景が再評価されています。

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