長尾晴景

長尾晴景とは

長尾晴景（ながお はるかげ）は、戦国時代に越後国を治めた武将であり、越後長尾氏の第八代当主にあたります。父は越後守護代であった長尾為景、母は上条上杉氏の出身とされます。

生涯

晴景は幼少期に越後守護であった上杉定実の猶子となり、その娘を正室に迎えるとともに、定実の一字を受けて当初は定景と名乗りました。その後、時の室町幕府将軍、足利義晴から偏諱を受けて晴景と改名しています。

天文九年（一五四〇年）八月、父・長尾為景が隠居したことにより、晴景は長尾家の家督を継承し、越後守護代の職を補任され、居城である春日山城主となりました。

父・為景が強硬な手腕で領国支配を進めたのに対し、晴景はより穏健な政策を志向し、越後国内の国人衆との融和に努めたと伝えられています。これにより、ある程度の安定をもたらすことに成功した面もありました。

しかし、越後国内の動揺を完全に抑えることはできませんでした。特に、主君であった上杉定実の跡継ぎを巡る問題、すなわち伊達氏から伊達時宗丸を養子に迎えるか否かで国内が混乱した天文の乱においては、有力国人である中条氏らを十分に統制することができませんでした。

そのような情勢下で、晴景の実弟である虎千代、後の上杉謙信の存在感が増していきます。虎千代は幼い頃に城下の寺院で過ごしていましたが、還俗して栃尾城主となると、各地で起こる反乱を鎮圧するなど目覚ましい活躍を見せ、家臣団の間で急速に名声を高めました。晴景には嫡子猿千代がいましたが早世しており、一部の家臣の間では、次代の当主として虎千代を擁立しようとする動きが現れ、長尾家は家中の分裂という危機に直面します。

こうした混乱が続く中、天文十七年（一五四八年）頃には、長年にわたり断絶していた関東管領山内上杉家との関係が修復されました。この時に関東管領であった上杉憲政と越後長尾氏の間で書状のやりとりが再開されたことは、後に憲政が越後へ逃れ、景虎を頼るという歴史的な展開の布石となりました。

そして天文十七年（一五四八年）十二月、晴景は主君であった上杉定実の仲介を得て、家督を弟の虎千代に譲り、自身は隠居することとなりました。

天文十九年（一五五〇年）二月、上杉定実が後継者を定めることなく死去したため、越後守護職は事実上、途絶えました。これに対し、家督を継いだ景虎は室町幕府将軍足利義輝より越後国主としての地位を認められるに至ります。

晴景自身は家督を譲った後、天文二十二年（一五五三年）二月十日に死去しました。享年四十五でした。

人物像を巡る議論

晴景の人物像については、謙信の書状などから、病弱な傾向があり、戦よりも和歌や茶道といった芸事を好んだという穏やかなイメージが伝えられています。また、後世に編纂された一部の史書には、景虎が晴景を殺害して家督を奪ったとする記述も見られますが、これは他の多くの史書の内容と大きく食い違っており、一般的には創作であると考えられています。

一方で、近年では従来の温和な人物像とは異なる側面を指摘する説も存在します。例えば、長尾為景の時代には中条氏を支持していた長尾氏が、晴景の代になると色部氏を支持するようになったことや、伊達時宗丸の越後上杉氏入嗣を巡る家中の対立において、晴景が反為景派の支持を得て父為景を隠居に追い込んだとする説です。さらに、上杉定実が天文十一年（一五四二年）に出したとされる、政治からの引退を表明する起請文も、実際には晴景が軍事力を背景に定実を政治的に排除したものだとする見方もあります。

これらの説が示唆するのは、晴景が父や主君に対して実力を行使し、越後における権力を掌握した可能性であり、その人物像について新たな議論が展開されています。

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