黒色戦線

黒色戦線：ナチス党内部の抵抗と終焉

黒色戦線（Schwarze Front）は、1930年から1935年にかけて存在したドイツの政治結社であり、ナチス党主流派への挑戦を象徴する組織でした。終戦後も地下組織として活動が継続されました。ナチス党から除名されたオットー・シュトラッサーを中心とした急進的なナチス左派が結成しました。

シュトラッサーとナチス党からの離反

オットー・シュトラッサーは、アドルフ・ヒトラーによるナチス党の方針転換、特に反資本主義的な本来のイデオロギーからの乖離を強く批判しました。彼は、ヒトラーの政策がナチス党の根幹を揺るがすものと見なし、党内改革を訴えましたが、受け入れられず、最終的に除名されました。この挫折をきっかけに、シュトラッサーは黒色戦線を結成、ヒトラー政権打倒を目指したのです。

黒色戦線の活動とイデオロギー

黒色戦線は、ナチス党とは異なる独自性を打ち出しました。「ハイル・ヒトラー」のかわりに「ハイル・ドイッチュラント」をスローガンとし、ハンマーと剣を組み合わせた独自のシンボルマークを使用しました。これは、かつてのナチス闘争出版社のシンボルマークからハーケンクロイツを除いたもので、党からの明確な決別を示すものでした。機関紙「ドイツ革命」を通じて、独自の主張を展開し、反ヒトラー運動を展開していきました。

黒色戦線は秘密結社的な側面を持ち、その活動は闇に包まれていました。「Schwarze（黒色）」には「闇」という意味合いも含まれており、その活動の秘密性を示唆しています。彼らはナチス左派、国防軍、労働組合といった様々な勢力との連携を模索しました。反ヒトラーの思想を持つ者であれば、共産主義者を除き、社会主義者、民主主義者、青年団体メンバーなど、幅広い層に支持を広げようとしていました。驚くべきことに、ナチス党上層部や親衛隊にも、黒色戦線のメンバーが潜伏していたという記録が残っています。

ナチス政権成立後、黒色戦線は地下組織として活動を続けました。その正体不明さは、ヒトラー政権にとって大きな脅威となりました。オットー・シュトラッサーのミュンヘンからの脱出劇では、突撃隊員が協力したという逸話も残されています。しかし、黒色戦線はナチス党に対抗するだけの組織力を持つには至りませんでした。

黒色戦線の終焉

ヒトラーが権力を掌握すると、黒色戦線への弾圧は激化しました。1934年の「長いナイフの夜」と呼ばれる粛清事件では、ナチス左派への弾圧が徹底的に行われ、オットー・シュトラッサーの兄であるグレゴール・シュトラッサーは殺害されました。オットー・シュトラッサー自身はチェコスロバキア、カナダへと亡命しました。

1968年には、「ヒトラーに対する黒色戦線」という共著を出版し、自らの経験と黒色戦線の活動を後世に伝えました。黒色戦線は失敗に終わったものの、ナチス党内部における抵抗運動の一端を示す重要な歴史的事例であり、ナチス・ドイツの権力構造や内部抗争を理解する上で欠かせない存在です。

関連書籍

「Die Schwarze Front:von den Zielen und Aufgaben und vom Kampfe der Deutschen Revolution」（Richard Schapke, 2005年）

関連項目

ナチス左派

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