1・2のアッホ!!

『1・2のアッホ!!』は、漫画家コンタロウによる日本のギャグ漫画作品です。集英社の『週刊少年ジャンプ』にて、1975年から1978年まで連載されました。本作は、新人ギャグ漫画家の登竜門として知られる赤塚賞の第2回（1975年）で最高位の入選を初めて獲得したコンタロウにとって、初めて本格的な長期連載に挑んだ記念碑的作品です。

作品概要

物語の舞台は、設備が極めて貧しい友情学園の野球部です。この野球部には、監督の「カントク」と、たった一人の部員である「定岡」しかいません。彼らが暮らすのは、グラウンドの片隅にあるみすぼらしい部室のボロ小屋。ろくに野球の練習もせず、試合に勝つこともないため、学園からは冷たい目で見られ、活動資金もほとんどありません。

そんな貧乏暮らしの中心にいるカントクと定岡のもとに、クラスメートの波目、学園の校長、出前持ちのノロ和など、個性的で一癖あるキャラクターたちが絡み、様々な騒動が巻き起こります。作品の最大の魅力は、その不条理かつナンセンスなギャグです。さらに、文学、映画、漫画といった過去の名作や、当時の実在の人物、さらには社会の出来事などを大胆にパロディ化し、風刺を効かせている点も大きな特徴であり、多くの読者から支持を得ました。

成立の背景と展開

コンタロウは、1975年に週刊少年ジャンプに掲載された読切作品『父帰る』で赤塚賞に入選しました。この作品は、南方の島から長年ぶりに帰国した元日本兵・金子一徹の騒動を描いたものでした。赤塚賞受賞後、コンタロウは週刊少年ジャンプで『友情学園』を短期集中連載。その後、少しの休止期間を経て、タイトルを『1・2のアッホ!!』と改め、長期連載がスタートしました。『父帰る』は『1・2のアッホ!!』とは厳密には異なる作品で、主人公も別人ですが、キャラクターデザインや作風に共通点が多く、単行本では『1・2のアッホ!!』の第1巻の冒頭に収録されています。

連載終了後も、本作の世界観は受け継がれました。1978年から1979年にかけて連載された『ルーズ!ルーズ!!』は、登場人物の多くが共通しており、カントクが野球部の監督ではなく怪盗になっているなど一部設定が変更された実質的な続編と言えます。また、2001年には『コミック伝説のマガジン』誌上で『新1・2のアッホ!!』として、2020年4月にはウェブ漫画サイト「Comic-Gakuen」で『帰ってきた1・2のアッホ!!』として復活しており、長年にわたり根強い人気を保っています。

主要な登場人物

カントク: 友情学園野球部の監督。かつては南方の島で長年潜伏していたという過去を持ちます（『父帰る』の設定）。野球部員は定岡一人。普段は部室のベンチで寝ていることが多いですが、面白いことが起きると急に活発になり、事態を引っ掻き回します。人間離れした顔立ちをしており、入れ歯を自由に操るなどの特技を持つ一方、肝心の野球の指導は全くできません。目立つことが大好きで、豊富な変装衣装を所持しています。
定岡: 野球部唯一の部員。本名は定岡正二（当時の人気プロ野球選手と同名）。カントクとは不思議な関係性で、10年前にカントクが部室前に捨てられていた赤ん坊を拾い育てました。真面目で純粋な性格ですが、カントクに育てられた影響でおふざけにも付き合います。カントク同様、野球は全くできません。感動しやすく、背景が真っ暗になるほどの「感動走法」で見る者を惹きつけます。貧しい実の両親に一度引き取られるも、再び捨てられて野球部に戻ったというエピソードもあります。
波目: 定岡のクラスメートで野球部によく出入りしています。特徴的な「〜」の形の瞳をしており、常に笑っているように見られます。知性的で冷静なツッコミ役ですが、騒動に加わって楽しむこともあります。
ノロ和: スターになることに異常な執念を燃やす、蕎麦屋の出前持ち。佐賀弁が特徴で、「おいはスターばい」が口癖。作品内でとばっちりを受けることが多いキャラクターで、作者の当時の担当編集者がモデルとされています。

他にも、頭に毛が一本しかない「電球頭」と呼ばれる友情学園の校長、犬なのに担任を務める天才犬先生、モデルが存在する多数のパロディキャラクター（野球選手、プロレスラー、歌手、俳優など）が登場し、物語に彩りを加えています。

パロディと風刺

本作の大きな魅力の一つは、多岐にわたるパロディと風刺です。当時の野球界を題材にした「読捨拒人軍」シリーズでは、実在のプロ野球チームや選手、監督（流目監督、陽打治など）がユニークにデフォルメされて登場しました。プロレス界のスター選手たち（ブラブーラ・ブッチャー、アントニオ・胃乃木、鉄の爪など）や、歌手（南春生、パンティーズなど）、俳優（アラッ・ドロン、田宮痔瘻など）、さらには有名事件（三億円事件、バスジャック事件、ハイジャック事件など）や社会現象（スーパーカーブームなど）もギャグの題材とされています。これらのパロディを通じて、時に世相を反映した風刺が効いたユーモアが展開されました。

コミックス第8巻巻末に掲載されたプロレスラー・ジャイアント馬場氏の解説によると、この漫画の「読捨拒人軍」シリーズは、実際に読売巨人軍のOB会で話題になったことがあると記されており、当時の読者への影響力の大きさがうかがえます。

『1・2のアッホ!!』は、コンタロウ独自の不条理な世界観と、当時の文化や出来事を巧みに取り込んだパロディ、そして魅力的なキャラクターたちが織りなす騒動で、少年ジャンプのギャグ漫画ジャンルにおいて確固たる地位を築いた作品と言えるでしょう。

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