1000ヤードの凝視

「1000ヤードの凝視」とは、戦場での極度の恐怖体験により解離状態に陥った兵士に見られる、焦点が定まらない虚ろな眼差しのことを指します。この状態は、感情が麻痺し、周囲の状況に対する反応が鈍くなるという特徴を伴います。時には、「2000ヤードの凝視」と呼ばれることもあります。

この言葉が一般に広まったのは、1945年6月にアメリカの雑誌『ライフ』に掲載された、従軍記者で画家でもあったトム・リーによる絵画「海兵隊員はそれを例の2000ヤードの凝視と呼ぶ」がきっかけです。この絵は、1944年のペリリューの戦いに参加した無名の海兵隊員の肖像画で、戦場の過酷な現実と、それによって引き起こされる心の傷を象徴的に表現しています。現在、この作品はワシントンD.C.の米陸軍戦史センターに収蔵されています。

この絵のモデルとなった兵士について、作者のトム・リーは、その眼差しに深い絶望と心の空白を見て取ったと述べています。その視線は、まるで魂が抜け落ちてしまったかのように、生気が感じられないものであったといいます。

ベトナム戦争に従軍したジョー・ハウルは、1965年に初めてベトナムに到着した際、配属された分隊の兵士たちの目に同じような感情の欠如を感じたと回想しています。彼は、「彼らの目はまるで生命が吸い取られたかのように、うつろだった」と語っており、後にそれが「1000ヤードの凝視」と呼ばれていることを知りました。ハウル自身も、ベトナムでの最初の戦友の死を目の当たりにした際、感情を麻痺させることが、過酷な状況を生き抜くための最良の選択だと気づいたと述べています。これは、極度のストレスやトラウマが、人間の心に深い影響を与えることを示唆しています。

この「1000ヤードの凝視」は、単に戦場での経験だけでなく、戦争以外のトラウマ体験によって解離状態に陥った人々にも見られることがあります。極度のストレスやショックな出来事は、人の心を深く傷つけ、感情の麻痺や解離を引き起こす可能性があるのです。

この状態は、しばしば戦闘ストレス反応や心的外傷後ストレス障害（PTSD）といった、精神的な問題に関連付けられます。このような状態は、適切な治療とケアによって改善することが可能です。心の傷を抱えた人々が、再び社会生活に適応できるよう、周囲の理解とサポートが重要となります。

関連する用語

戦闘ストレス反応: 戦闘などの過酷な状況下で生じる精神的、身体的な反応。
緊張病: 精神運動の障害を特徴とする症候群で、過度の興奮や無反応状態を引き起こす。
防衛機制: ストレスや不安から自分を守るための心理的なメカニズム。
アフガンの少女: 1984年にナショナルジオグラフィック誌の表紙を飾った、アフガニスタン難民の少女の写真。その鋭い眼差しは、戦争の悲劇を象徴するものとして広く知られている。
* シェルショック: かつて戦争神経症と呼ばれた、戦闘経験による精神的なトラウマ反応を指す言葉。

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