100VG-AnyLAN

100VG-AnyLANとは

100VG-AnyLAN（ひゃくブイジーエニィラン）は、かつて存在したコンピュータネットワークの規格の一つです。1995年にIEEE 802.12で標準規格化された、100Mbpsの転送速度を持つLAN技術でした。10BASE-Tと同じカテゴリー3のUTPケーブルを使用し、最大セグメント長は100mと規定されていました。

前身：100BASE-VG

100VG-AnyLANの前身は、100BASE-VGという規格でした。1990年にIEEE 802.3小委員会が10MbpsのLAN規格「10BASE-T」を承認した後、1992年から100Mbpsの次世代LAN規格の標準化作業が開始されました。この際に、米ヒューレット・パッカード社（HP社）が100BASE-VGを提案しました。

100BASE-VGは、IEEE 802.3で規定されたフレームを使用しましたが、アクセス制御方式は100BASE-TXのCSMA/CD|CSMA_CDとは異なり、独自の方式を採用しました。HP社は、CSMA/CD|CSMA_CD方式には伝送路が混雑した場合に送信できないPCが発生するという弱点があると指摘し、100BASE-VGではハブが各ポートに順番に送信要求を尋ねることで、平等な送信機会を提供する方式を導入しました。

また、100BASE-VGは10BASE-Tと同じカテゴリー3のUTPケーブルを使用できたため、コスト面での優位性も主張されました。「VG」は、このケーブルが元々電話用の配線に使用されていたことから、Voice Grade（音声品質）に由来しています。

改名：100VG-AnyLAN

1993年夏、100BASE-VGはIEEE 802.3小委員会から802.12小委員会へと協議の場を移しました。当時、トークンリングを推進していた米IBM社が、100BASE-VGの規格案にトークンリングフレームの利用も追加する提案を行い、これが承認されました。これに伴い、規格名称は100BASE-VGから100VG-AnyLANに変更されました。新しい名称の「Any」には、様々なフレームを扱えるという意味が込められています。1995年、100VG-AnyLANはIEEE 802.12で正式に標準規格として承認されました。

市場での競争と敗退

100MbpsのLAN規格は、最終的にIEEEによる一本化は実現せず、100BASE-TXと100VG-AnyLANの二つの規格が市場で競争することになりました。1990年代後半には、100MbpsのLANスイッチ（L2スイッチ）の価格が一般ユーザーの需要増加に伴い急速に低下しました。また、10BASE-Tと100BASE-TXは混在環境でもそのまま使用できるという導入の容易さや、ネットワーク機器メーカー、PCメーカー、ソフトウェアメーカーも10BASE-Tからの変更が容易であったことから、100VG-AnyLANの製品は市場から急速に姿を消しました。

100VG-AnyLANが提唱したCSMA/CD|CSMA_CDの弱点は、実際にはユーザーが意識できるほどの遅延は発生せず、むしろネットワーク全体の転送速度が問題視されるようになりました。価格競争の激化も影響し、100BASE-TXの方が圧倒的に安価であったため、公平な送信機会を保証する100VG-AnyLAN製品は市場で支持を得られませんでした。

動作原理

100VG-AnyLANは、CSMA/CD|CSMA_CD方式のパケット衝突（コリジョン）を避けるために、LANスイッチ側から各ポートに順番に送信要求を尋ねる方式を採用しました。これにより、各PCは一定時間待てば確実に送信機会が回ってくるため、CSMA/CD|CSMA_CD方式よりもネットワークの確実性が高まります。また、伝送路が混雑した際にも、CSMA/CD|CSMA_CD方式のように衝突による伝送路の使用不可時間が少なくなるため、伝送効率の向上が期待できます。

まとめ

100VG-AnyLANは、独自のアクセス制御方式を採用し、公平な送信機会を提供しようとしたLAN規格でしたが、市場での競争に敗れ、短期間で姿を消しました。100BASE-TXの低コストと導入の容易さ、そしてユーザーが体感できない程度の公平性機能が敗因となりました。

出典

前田潤著 「温故知新 100VG-AnyLAN」 日経エレクトロニクス 2008年1月号 p.69

関連項目

• - イーサネット
• - 100メガビット・イーサネット
• - IEEE 802.3
• - IEEE 802.5

もう一度検索