11番目の時間

「11番目の時間」：新たなドクターとコンパニオンの幕開け

2010年4月3日、イギリスのSFドラマ『ドクター・フー』第5シリーズは衝撃的な幕開けを迎えた。その第1話「11番目の時間」(原題: The Eleventh Hour)は、シリーズの舵取りがラッセル・T・デイヴィスからスティーヴン・モファットへと移行したことを象徴する作品であり、同時に新たなドクターとコンパニオンの誕生を告げる記念碑的なエピソードだった。

物語: イングランドの村レドワースにタイムマシン・ターディスが墜落、スコットランド出身の少女アメリア・ポンドと出会う11代目ドクター（マット・スミス）。ターディスの故障により、ドクターはアメリアに5分後に戻ると約束するも、再会を果たすのは12年後。成長したアメリア、エイミー・ポンド（カレン・ギラン）は、ドクターの言葉を信じず、彼を警戒する。エイミーの信頼を得るため、ドクターは地球侵略を企む宇宙警察アトラクシに、地球を滅ぼす可能性を持つプリズナーゼロを引き渡すべく奔走する。この出会いを起点に、ドクターとエイミーの長く複雑な関係が展開していくことになる。

製作陣とキャストの刷新: このエピソードは製作面でも大きな変化があった。脚本とエグゼクティブ・プロデューサーを務めるのはスティーヴン・モファット、監督はアダム・スミス。デイヴィッド・テナント演じる10代目ドクターの後継として、26歳のマット・スミスが11代目ドクターに抜擢された。従来の慣例を破り、再生直後のドクターは休むことなく、いきなり地球の危機に立ち向かう。新しいドクター、新しいコンパニオン、そして新しいターディスとソニック・ドライバー。全てが刷新され、視聴者に見慣れない新鮮な世界観が提示された。

エイミー・ポンドとローリー・ウィリアムズ: カレン・ギラン演じるエイミーは、シリーズを通してドクターの重要なコンパニオンとなる。幼少期のエイミー、アメリアを演じたのはギランの実の従妹。また、アーサー・ダーヴィル演じるローリー・ウィリアムズもこのエピソードで初登場し、後に主要キャストとして活躍することになる。エイミーとローリーのロマンス、そしてドクターとの複雑な三角関係は、シリーズ全体を通して重要な要素となる。

脚本: モファットの脚本は、ドクターの再生直後という状況を活かし、新しいドクターのキャラクターを巧みに確立している。ロンドンを離れ、架空の村レドワースを舞台にしたことで、より親密で人間味あふれる物語が展開する。ドクターの新しい身体、新しい性格への適応、そして成長したエイミーとの再会。約束を破ったことで、エイミーはドクターを想像上の友達としか認識しない。この過去の出来事が、エイミーの大人としての性格形成に影響を与えていることが繊細に描かれている。

撮影と特殊効果: 撮影は2009年に行われ、アダム・スミスによる演出は、映画『E.T.』やティム・バートンの作品からインスピレーションを受けた、独特の雰囲気を作り出している。特殊効果では、プリズナーゼロのデザインや、ドクターがターディスにぶら下がるシーン、ストップモーションアニメーションなど、様々な技術が用いられている。これらの効果は、必ずしも完璧ではなかったものの、独特の風合いを生み出し、作品に魅力を加えている。

放送と反響: イギリスでの放送は、視聴者数1008万人を記録し、高い人気を博した。BBC iPlayerでも127万人の視聴者数を獲得するなど、オンラインでの配信でも大きな成功を収めた。アメリカやカナダ、オーストラリアなどでも放送され、世界的な注目を集めた。

批評家の評価: 批評家からは、マット・スミスとカレン・ギランの演技、スティーヴン・モファットの脚本、そしてアダム・スミスによる演出が高く評価された。新しいドクターとコンパニオンの化学反応、そしてシリーズ全体のストーリーへの布石として、このエピソードは『ドクター・フー』シリーズの中でも高い評価を得ている。一方で、プリズナーゼロのCGや物語の展開に関する批判もあったが、全体としては高く評価されており、様々な賞賛の声が寄せられた。しかし、エイミーのキャラクター設定や一部の描写に関して、家族向けの番組としては性的すぎるという批判もあった。

その他: 「11番目の時間」はDVDやブルーレイ、書籍など、様々なメディアでリリースされ、現在も多くのファンに愛され続けている。このエピソードは、単なるシリーズの始まりではなく、新しい時代への鮮やかな幕開けであり、モファット時代の『ドクター・フー』の成功を予感させる傑作と言えるだろう。

もう一度検索