110フィルム

110フィルムとは

110フィルムは、16mm幅のフィルムをプラスチック製のカートリッジに格納したスチル写真用のフィルム規格です。画面サイズは13×17mmと小型で、日本では「ポケットフィルム」とも呼ばれていました。1972年にコダックが導入し、先行する126フィルムよりもさらに小型化され、横長のフォーマットになったのが特徴です。後のデジタルカメラのセンサーサイズであるフォーサーズ・マイクロフォーサーズシステム（13mm×約17.3mm）とほぼ同じサイズであるという興味深い点も持っています。

110フィルムを使用するカメラは「110カメラ」または「ポケットカメラ」と呼ばれます。

110フィルムの特徴

カートリッジに格納されたフィルムには裏紙が付いており、撮影枚数がフィルム後部の穴に表示されます。この穴の横にはフィルムタイプ（メーカー、枚数、感度）を示す情報が貼られており、カメラには外部から確認できる窓が設けられています。これにより、カメラ側にカウンターを設ける必要がなく、カートリッジ式のため、フィルムの脱着も容易で初心者でも扱いやすい点が特徴です。

フィルム格納側と巻き取り側の両方にマガジンを備えるダブルマガジン構造で、撮影後にフィルムを巻き戻す必要がなく、カートリッジごと現像業者に依頼します。現像済みの110フィルムは、カートリッジから取り外され、フィルムストリップの状態で返却されます。また、フィルムには出荷時点でフレーム線とフレームナンバーが焼き付けられており、現像業者での作業効率化が図られています。これらの特徴は、先行する126フィルムのものをほぼそのまま受け継いでいます。

110フィルムのカートリッジには、感度検知用のプラスチック製タブが付いており、タブの切り欠きの有無でフィルムの感度をカメラが自動的に判別します。切り欠きがあれば高感度（ISO400）、なければ低感度（ISO64-125）に設定されます。ただし、初期の110カメラにはISO400のフィルムに対応した設定機能がない場合や、トイカメラなど安価な製品にはこの機能が装備されていないこともあります。また、末期に製造されたISO400フィルムの中には、タブの切り欠きがなく、ユーザーが自分で切り欠きを作成する必要があるものもありました。

110フィルムは画面サイズが小さいため、引き伸ばしが難しく、粒子が粗く、シャープさに欠ける仕上がりになりやすいと言われています。しかし、これはカートリッジがフィルムをフラットに保てないという誤解に起因するものでもあります。

110フィルムの歴史

110フィルムは、1972年にコダックが対応カメラ（ポケットインスタマチックカメラ）と共に発表しました。小型化されたことで、126フィルム（画面サイズ26×26mm）の後継として、すぐに人気を博し、多くのメーカーが参入しました。ミノルタのポケットオートパックなどのカメラが市場を席巻し、インスタマチックやミノルタ16シリーズなど、従来からあった各社独自の小型カメラを代替しました。

しかし、35mm判カメラの低価格化・小型化が進むにつれて、110フィルムの需要は減少し、1980年代半ばにはほとんどのカメラメーカーが製造を中止しました。その後も、輸入された安価なカメラが雑貨として販売されました。コダックは1982年にディスクカメラを発売し、簡便なカメラの主軸を移行させましたが、21世紀になっても110カメラの出荷を継続していたようです。安価なカメラは、110フィルムの粒状感が目立つ特性と相まって、トイカメラとしての人気を得ました。現在では、ロモグラフィーが「DIANA」と「FISHEYE」のミニタイプ（ベイビータイプ）をラインナップしています。

1990年代末期にコダックが126フィルムやディスクフィルムの製造を中止した後も、一部の根強い需要に応えて110フィルムの供給が続けられていましたが、2008年から2009年にかけて、アグファフォト、コダック、富士フイルム、フェッラーニアが相次いで製造を終了し、2010年頃にはネガカラーフィルムの生産はほぼ終了しました。

その後、2012年にロモグラフィーがモノクロフィルム、カラーフィルム、レッドスケールフィルム、クロスプロセスフィルムの生産を開始し、日正写真商会が中国製の110フィルムの取り扱いを始めましたが、2014年に日正写真商会が閉店し、輸入元も完売しました。現在では、ロモグラフィーの製品が主に流通しています。

110カメラ

110カメラは、110フィルム専用のカメラで、ほとんどの製品はシンプルな構造で、レンズや露出制御も基本的なものに限定されています。1990年代以降のトイカメラでは、単焦点レンズで焦点、絞り、シャッター速度が固定されているのが一般的です。

これは110フォーマットの標準レンズ（21.4mm）において、一般的なスナップ写真の撮影において、ISO100、シャッター速度1/125秒、レンズF値8.0に設定した場合、被写界深度によってピント調整が不要で、ネガフィルムの性能向上によって露出調整の必要性が少なくなったためです。

1970年代には、高性能のマルチエレメントレンズ、電子制御露光システム、連動距離計、一眼レフカメラなど、高画質の写真撮影を可能にする高級機も存在し、これらの機種は現在でも超小型カメラ愛好家に人気があります。また、ラジオ、双眼鏡、顕微鏡、モデルロケットなどと複合した製品も多く存在します。

110フィルムのタイプ

110フィルムは一般的にカラーネガフィルムが主流ですが、コダックはかつてコダクローム、エクタクロームなどのカラーリバーサルフィルムやモノクロフィルムも製造していました。富士フイルムも医療機器用としてリバーサルフィルムを供給していました。

110リバーサルフィルムのスライドマウントは、当初は35mm判とは異なる小型サイズで、専用のスライド映写機や、通常の映写機に装着するためのアダプターが販売されました。後期には35mm判と同じサイズのマウントが使用されるようになりました。

現像について

110フィルムの衰退とともに、フィルムの現像を行うラボも減少し、気軽に扱えるフィルムではなくなっていきました。ロモグラフィーは独自に現像サービスを行っていましたが、2014年に終了しました。現在では、神奈川県のチャンプカメラが各店で110カラーネガフィルムの現像からデータ化、プリントまでを当日仕上げで請け負っており、品川区の株式会社フラッシュが110カラーネガフィルムの現像のみを請け負っています。

また、アメリカ製や旧ソビエト製の現像タンクには、リールの幅を調節することで110フィルムを現像できるものもあります。

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