17のポーランドの歌

17のポーランドの歌 作品74

フレデリック・ショパンが手掛けた唯一の歌曲集である『17のポーランドの歌』作品74は、作曲家の死後、1857年に彼の親友であったユリアン・フォンタナによって初めて世に出された遺作です。この作品は、ショパンが自身の創作活動の中で、比較的長期にわたって作曲したポーランド語による歌曲を集めたもので、おおよそ1829年頃から1847年頃にかけて書かれたとされています。しかし、出版時の曲順は、必ずしも作曲年代順にはなっていません。

ショパンの歌曲は、ごく一部の例外を除いて、生前にはほとんど発表されませんでした。フォンタナの記録によれば、作曲家はこれ以外にも数多くの歌曲を生み出したものの、残念ながらその大部分は今日に伝わっていません。後年には、『ドゥムカ』や『魔女』といった作品も、1910年になってから改めて出版されました。また、真贋の定かではない作品も存在するとの報告があります。

これらの歌曲が作曲された動機は、商業的な出版を目的としたものではなく、ショパン自身の個人的な思いや感情を表現するためでした。そのため、ピアノ伴奏の書法は非常にシンプルで、ピアノ作品のような技巧的な華やかさよりも、歌曲本来のメロディに寄り添う形で書かれています。『願い』などの自筆譜には、ピアノ譜の上段にメロディが書かれ、そこに歌詞が添えられている例も見られます（現在流通している校訂版では、声楽パートとピアノパートは分離して編集されています）。ショパンが得意としたマズルカのリズムや様式は、『願い』や『かわいい若者』といった歌曲の中にも効果的に用いられています。

編成は、ソプラノ独唱とピアノ伴奏という簡潔な構成です。全17曲からなるこの歌曲集には、様々なポーランドの詩人の言葉にショパンが旋律を与えています。最も多くテキストに用いられているのはステファン・ヴィトヴィツキの詩ですが、アダム・ミツキェヴィチやヨゼフ・ボーダン・ザレスキといった著名な詩人の作品も含まれています。

楽曲構成（全17曲）

1. 願い（Życzenie） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ) - 『乙女の願い』としても広く親しまれています。
2. 春（Wiosna） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ)
3. 悲しみの川（Smutna rzeka） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ)
4. 酒宴（Hulanka） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ)
5. 彼女の好きな（Gdzie lubi） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ)
6. 私の見えぬところ（Precz z moich oczu） (作詞：アダム・ミツキェヴィチ)
7. 使者（Poseł） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ)
8. かわいい若者（Śliczny Chłopiec） (作詞：ヨゼフ・ボーダン・ザレスキ)
9. メロディ（Melodia） (作詞：ジグムント・クラシンスキ)
10. 闘士（Wojak） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ)
11. 二人の死（Dwojaki koniec） (作詞：ヨゼフ・ボーダン・ザレスキ)
12. 私の愛しい人（Moja pieszczotka） (作詞：アダム・ミツキェヴィチ)
13. 望みはない（Nie ma czego trzeba） (作詞：ヨゼフ・ボーダン・ザレスキ)
14. 指環（Pierścień） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ)
15. 花婿（Narzeczony） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ)
16. リトアニアの歌（Piosenka litewska） (作詞：ステファン・ヴィトヴィツキ) - リトアニアの民謡の翻訳詩に基づいています。
17. 舞い落ちる木の葉（Śpiew z mogiłky） (作詞：ヴィンチェンティ・ポル) - 原題は『墓場より歌える』。1830年11月蜂起の失敗を背景とした詩集『ヤヌシュの歌』に由来します。フォンタナの初版では検閲により収録が見送られ、後になって出版されました。

この歌曲集の中から、フランツ・リストは特に魅力的な6曲を選び、ピアノ独奏用に編曲しました。これが『6つのポーランドの歌』S.480として、1860年に出版されています。リストによる編曲版では、原曲の美しい旋律を活かしつつ、リストならではの技巧や表現が加えられています。ただし、リスト版では歌詞の代わりにドイツ語のタイトルが付されており、原曲とは異なる解釈が加えられている楽曲もあります。例えば、第6曲の『家路』は原曲の『花婿』に基づきますが、原曲から大きく変化しているため、この曲には歌詞の記載がありません。また、ショパン自身も第2曲『春』のピアノ編曲版を残しています。

リストによる6つのポーランドの歌 S.480

1. 乙女の願い（Mädchens Wunsch） (原曲：願い) - 主題と3つの変奏から構成されます。
2. 春（Frühling） (原曲：春)
3. 指環（Das Ringlein） (原曲：指環) - 切れ目なく次の曲に移ります。
4. バッカナール（Bacchanal） (原曲：酒宴)
5. 私の愛しい人（Meine Freuden） (原曲：私の愛しい人) - 原曲よりも洗練された響きを持つ編曲です。
6. 家路（Die Heimkehr） (原曲：花婿) - 原曲の雰囲気を大胆にアレンジした自由な編曲です。

『17のポーランドの歌』は、ショパンの膨大なピアノ作品群とは異なる側面を示す、彼の内面や祖国ポーランドへの思いが凝縮された貴重な作品集と言えるでしょう。その素朴でありながら心に響く旋律は、発表から時を経た現在も多くの音楽愛好家に愛されています。

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