1800年代の航空

19世紀初頭は、人類が空を舞台に活動範囲を広げ始めた画期的な時代です。特に熱気球による飛行が成熟期を迎え、それまで想像もできなかったような高高度や長距離の移動、さらには海を越える試みも行われました。一方で、より実用的な飛行機（空気より重い飛行機）に向けた基礎研究や実験も静かに進められ、現代航空の礎が築かれつつありました。

年代不詳（日本・伝説）

正確な年代は不明ですが、日本の常陸国（現在の茨城県）筑波郡谷田部新町に住んでいた名主であり、からくり師としても知られる飯塚伊賀七に関する興味深い伝説が残されています。彼は、複数の羽を重ねた構造を持つ人力飛行機を製作し、実際に飛行実験を試みたといわれています。これは日本の技術者が独自の着想で空を目指した、注目すべき逸話です。

1803年

熱気球による記録的な飛行が相次ぎました。

7月18日：ベルギー生まれの著名な奇術師・物理学者、エティエンヌ＝ガスパール・ロベールは、ドイツのハンブルクで熱気球に乗り込み、7,280メートルという驚異的な高度への到達を記録しました。
10月3日～4日：フランスのパイオニア、アンドレ＝ジャック・ガルヌランは、ロシアのモスクワからポローヴァまで、およそ300キロメートルにおよぶ長距離気球飛行を成功させました。
10月7日～8日：イタリアのフランチェスコ・ザムベッカーリらは、気球を用いてボーローニャのモンタニョーラからアドリア海を越える困難な飛行に挑み、現在のクロアチア領にあたるイストリア半島の海岸線近くまで到達しました。

1804年

空気より重い飛行に関する重要な一歩が記されました。

イギリスの科学者、ジョージ・ケイリーは、手投げ式の小型模型ながら、現代の固定翼機が飛行するための基本的な原理（揚力、抗力、推力、重力のバランス）を組み込んだ飛行可能な模型を製作しました。彼の研究は、後の飛行機開発に大きな影響を与えました。
9月29日：アブラハム・ホプマンによって、オランダで初めての気球飛行が行われました。

1805年

1月17日・18日：ロシア船で日本の長崎に来航していたドイツ人船医で博物学者のゲオルク・ハインリヒ・フォン・ラングスドルフは、日本の和紙を用いて無人の熱気球を作り、浮揚実験を行いました。1月18日の実験では気球が市街地に落下し、煙が出たことで住民が奉行所に訴え出る騒ぎとなりましたが、異国の地でのユニークな試みとして記録されています。
8月18日：フランスのソフィー・ブランシャールは、トゥールーズからの飛行で、女性として史上初めて単独での気球飛行を成功させました。彼女は後にプロの気球乗りとして活躍しました。

1806年

航空技術の軍事的な可能性が示されました。

イギリス海軍のトマス・コクラン卿は、フランス沿岸に宣伝ビラを散布するため、フリゲート艦「パラス」から大型の凧を揚げるという試みを行いました。
イギリスのウィリアム・コングリーブ卿が開発したロケット兵器が、ナポレオン戦争で実戦投入されました。重量約14.5kg、射程約2800mとされるこのロケットは、同年4月のガエタ攻囲戦や10月のブローニュ攻撃で使用され、その破壊力が注目されました。

1807年

11月22日～23日：アンドレ＝ジャック・ガルヌランは、パリからルクセンブルクの一部であるクラウゼンまで、約395キロメートルというさらなる長距離の気球飛行を達成しました。

1808年

11月：スイス生まれのオーストリアの発明家、ヤーコプ・デーゲンは、人力で羽ばたくオーニソプターに小型の水素気球を組み合わせることで、浮力を補助しつつ動力と方向制御を試みました。これは史上初の「操縦可能な自由飛行」の成功例とされており、空気より重い機体の制御に向けた重要な実験でした。

1809年

ジョージ・ケイリーは、航空に関する重要な論文『空中航行論（On Aerial Navigation）』を発表しました。この論文の中で彼は、空気より重い飛行機（重飛行機）が飛行するための科学的な原理を体系的に論じ、揚力と推力を分離する必要性などを説きました。彼の理論は、後の航空機設計の基礎となりました。

1800年代は、気球による冒険が最高潮を迎える一方で、飛行機の時代に向けた理論的・実践的な探求が始まった、航空史における重要な過渡期であったと言えるでしょう。

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