1906年の航空

1906年は、人類が空を舞台に技術革新を加速させた、航空史において極めて重要な転換期となりました。

この年、フランスではシャルル・ヴォワザンとガブリエル・ヴォアザンの兄弟が、後の航空機開発を牽引するヴォワザン航空機を設立しました。これは、航空機が単なる実験装置から産業へと発展する萌芽を示す出来事でした。

飛行船の分野では、ドイツのツェッペリン飛行船LZ IIが不時着後、強風により破壊されるというアクシデントに見舞われましたが、同年10月には改良型のLZ IIIが初飛行に成功し、飛行船の実用化に向けた歩みは止まりませんでした。また、フランスではルボーディ兄弟が製作した大型飛行船「祖国号」もこの年に処女飛行を行っています。

気球による長距離飛行も盛んに行われました。スペインのヘスス・フェルナンデス・デュロはフランスからスペインへのピレネー山脈越えを気球で達成し、アルプス越えもイタリアのセレスティーノ・ウジュエリとカルロ・クレスピによって「ミラノ」号で成功しました。さらに、国際的な気球レースであるゴードン・ベネット・カップが初開催され、アメリカ陸軍のフランク・ラームが初代優勝者となるなど、気球は依然として空の主要な移動手段の一つとしての存在感を示していました。

イタリアでは、海軍士官のマリオ・カルデラーラが複葉の水上グライダーを製作し、モーターボートで牽引する形で水上からの離陸実験を試みています。これは、後の水上機開発の先駆けとなるユニークな取り組みでした。

そして、この年の最も画期的な出来事は、動力による飛行の試みと、その「公式な記録」の誕生でした。ルーマニアのトライアン・ヴイアは動力飛行を試みましたが、その記録は非公式なものに留まりました。デンマークのヤコブ・エレハマーも動力機「ダネマーク I」を飛行させましたが、国際航空連盟による公式認定は得られませんでした。フランスのルイ・ブレリオとガブリエル・ヴォアザンによるブレリオ IIIの試験は、残念ながら飛行には至りませんでした。

こうした試行錯誤が続く中、ブラジル出身のアルベルト・サントス・デュモンが歴史を動かしました。彼はパリで自作の固定翼動力機「14-bis」を用いて飛行実験を重ね、9月には非公式ながら初飛行に成功しました。そして10月23日、パリ郊外で行われた公開飛行において、14-bisは60メートルを飛行。この偉業はフランス飛行クラブによって正式に認められ、欧州大陸における動力飛行の最初の公認記録として歴史に刻まれ、「アルシュデック賞」が授与されました。さらに11月13日には、サントス・デュモンは14-bisで220メートルを21秒間飛行し、これが国際航空連盟による公式認定手続きを経て樹立された、飛行機による世界初の公認飛行記録となりました。

1906年は、気球や飛行船といった既存の航空技術が進展する一方で、特にサントス・デュモンによる一連の成功が、後に主流となる飛行機の実用化に向けた確かな一歩を示した年でした。公式記録という概念が生まれたことも重要であり、これは技術の進歩を測定し、競争を促進する上で不可欠な要素となっていきます。まさに、現代航空の基礎が固まり始めた記念すべき一年と言えるでしょう。

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