1913年の航空

1913年：航空黎明期の躍進と試練

1913年は、航空技術が世界各地で目覚ましい発展を遂げた一年であり、同時に、その新たな技術が孕む危険性も浮き彫りになった年でした。各国で航空機への関心が高まり、技術的な挑戦、長距離飛行への試み、そして組織的な運用が活発に行われました。

この年、中国はフランスのコードロン社から最初の航空機12機を導入し、自国の航空能力の礎を築きました。また、メキシコ革命の戦渦においては、パンチョ・ビリャ率いる革命軍のパイロット、グスタボ・サリナス・カミーリャとフランス人飛行士ディディエ・マッソンにより、航空機を用いた史上初の爆撃が敢行されました。これは、航空機が偵察のみならず攻撃手段としても利用されうることを示す出来事でした。

日本では、航空の普及と振興を目的として、社団法人帝国飛行協会が設立されました。しかし、早くも航空の危険性が現実のものとなります。3月28日には日本陸軍のブレリオ機が強風によって墜落し、木村鈴四郎中尉と徳田金一中尉が殉職しました。さらに、5月4日には民間の飛行家である武石浩玻氏が航空事故により命を落とし、日本国内における航空事故による初の民間人犠牲者となりました。

技術的な革新への試みも続きました。ドイツのアントン・クノーベルは、羽布の代わりに透明な樹脂を張った、文字通り「透明な飛行機」を開発しました。これは素材研究のユニークな事例と言えるでしょう。

長距離飛行や記録への挑戦も活発に行われました。4月24日、フランスのウジェーヌ・ジルベールは、パリ郊外からスペインのビトリア＝ガステイスまでの825kmを8時間23分で無着陸飛行するという、当時の常識を覆す長距離飛行を成功させました。また、6月26日にはクロード・グレアム＝ホワイトがフロート装備のモラーヌ・ソルニエ機で、パリからドーバー海峡を越えてロンドンまで約500kmを飛行しました。

特定の分野での記録樹立もありました。6月13日、アメリカ海軍のパトリック・ベリンジャーはカーチス水上飛行機で6,200フィートの高度記録を達成しました。7月21日には、アメリカ人女性のタイニー・ブロードウィックが、女性パイロットとして初めて飛行機からのスカイダイビングに成功し、新たな可能性を示しました。さらに、スイスのパイロット、オスカー・ビーダーは7月にアルプス山脈を越えるベルン・ミラノ間の往復飛行という、困難な山岳地帯での飛行を成し遂げました。

飛行技術の限界に挑むパイオニアも現れました。フランスのアドルフ・ペグーは、8月19日にヨーロッパで初めて航空機からのパラシュート脱出を成功させ、翌9月1日には背面飛行にも成功しました。これらの曲技飛行は、航空機の操縦可能性を広げるものでした。ローラン・ギャロスは9月23日、地中海を横断する壮挙に挑み、フランスからチュニジアまでの729kmを7時間53分で踏破しました。

軍事組織における航空部隊の設立も進みました。7月1日にはオランダ陸軍内に陸軍航空群（LAV）が創設され、後のオランダ空軍の礎となりました。11月2日には、ブレゲー機とニューポール機合わせて8機体制でタイ空軍が発足しました。

航空機の設計においても画期的な進歩が見られました。ロシアのイーゴリ・シコルスキーは、大型旅客機「イリヤー・ムーロメツ」を開発し、12月11日に初飛行させました。これは離陸重量4.5トンを誇る世界初の4発機であり、12名の搭乗が可能な大型機でした。後に第一次世界大戦で爆撃機として転用されることになります。

飛行船の分野でも活動がありましたが、悲劇的な事故も発生しました。9月9日、ドイツ海軍のツェッペリン飛行船LZ14が嵐と低温により北海に墜落し、搭乗者20名中14名が犠牲となりました。これはツェッペリン飛行船における初の死亡事故となりました。さらに10月17日には、別のツェッペリン飛行船LZ18が試験飛行中にエンジン爆発を起こし、搭乗者28名全員が死亡するという大事故に見舞われました。

その他の事故としては、9月13日にルーマニアのパイロット、アウレル・ヴライクが自作機でカルパティア山脈越えに挑戦中に墜落死しています。

競技会としては、4月16日に第1回シュナイダー・トロフィー・レースが開催され、フランスのモーリス・プレヴォがデュペルドサン機で優勝を飾りました。

気球分野では、12月にはドイツのヒューゴ・カウレンが気球による87時間という連続滞空記録を樹立しました。この記録は1935年まで破られませんでした。

1913年は、航空技術が黎明期を脱し、実用化、大型化、長距離化へと急速に進化を遂げた年でした。同時に、その挑戦には常に危険が伴い、多くの犠牲者も出ました。この年の出来事は、その後の航空史の方向性を決定づける重要な一歩となったと言えるでしょう。

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