1926年のテレビ

1926年 テレビジョン技術における画期的な進展

1926年は、現代社会を支える基盤技術の一つであるテレビジョン技術の開発史において、節目となる重要な出来事が複数起こった年として特筆されます。この年、遠く離れた日本とイギリスにおいて、それぞれの研究者がテレビジョンの実現に向けた大きなブレークスルーを達成しました。

日本におけるブラウン管利用の成功

日本では、大正時代から昭和元年へと改元された1926年の暮れ、12月25日に、浜松高等工業学校（現在の静岡大学工学部）で研究に励んでいた高柳健次郎博士が、テレビジョンの受像において画期的な成果を挙げました。当時、テレビジョンの研究は世界的に進められていましたが、その多くは機械式の走査と受像方式に依存していました。しかし、高柳博士は、将来の高精細な映像表示には電子的な手法が不可欠であると考え、ブラウン管（陰極線管）をテレビジョンの受像機として用いる研究を進めていました。

博士がこの日、世界に先駆けて実演に成功したのは、機械的な走査装置と電子的な受像装置を組み合わせた「機械・電子折衷式」テレビジョンシステムです。送信側では、回転するニポウディスクと光電管を使って映像を電気信号に変換し、有線で受像側に伝送しました。そして、受像側では、ブラウン管を用いてその電気信号を光の点に変換し、映像として表示することに成功しました。この時、ブラウン管上に再現された記念すべき最初の映像は、日本の文字であるカタカナの「イ」でした。

機械式テレビジョンの受像方式には、画面の明るさや解像度に物理的な限界がありました。それに対し、高柳博士がブラウン管による受像を実現したことは、その後のテレビジョンがより明るく、より鮮明な映像を表示できる全電子式へと発展していく上で、決定的に重要な第一歩となりました。この功績により、高柳博士は「日本のテレビの父」と呼ばれ、日本のテレビジョン開発の礎を築いた人物として歴史に名を刻んでいます。

世界初の動く映像生中継の達成

同じ1926年、海を隔てたイギリスでは、スコットランド出身の発明家ジョン・ロジー・ベアードが、テレビジョン技術の実用化に向けた大きな一歩を踏み出していました。年が明けて間もない1月26日、ベアードはロンドンの王立学会において、自身が開発したテレビジョンシステムを使った画期的な実演を行いました。

この実演でベアードが成功させたのは、世界で初めてテレビジョンによる「動く映像の遠隔生中継」でした。当時のベアードのシステムは、回転する円盤を用いた機械式テレビジョンであり、送信側で映像を電気信号に変換し、離れた場所に無線で伝送。受信側でその信号を再び映像として再現しました。伝送された映像はモノクロの濃淡画像で、走査線数は30本と少なく、1秒間に12.5コマという粗いものでしたが、それでも静止画ではなく、人が動く様子などをリアルタイムで伝送できたことは、当時の技術水準からすれば驚くべき成果でした。この成功は、テレビジョンが単なる画像伝送装置にとどまらず、遠隔地の様子をその場で映し出すメディアになりうることを世界に知らしめ、テレビジョン技術の可能性を大きく広げました。

その他の画像電送技術の一例

テレビジョン技術そのものとは性質がやや異なりますが、1926年には広義の画像電送技術の分野でも注目すべき出来事が記録されています。同年8月18日には、アメリカにおいて、アーリントンからワシントンD.C.にある国立気象局へ、天気図が初めて無線で電送されました。これは、今日のファクシミリ技術にもつながる、気象情報を迅速に共有するための初期の試みでした。

1926年の成果が持つ意義

このように、1926年は、日本と世界の主要な研究者が、それぞれの場所で異なるアプローチを取りながらも、テレビジョン技術の実現と実用化に向けて大きな貢献を果たした年でした。高柳健次郎博士によるブラウン管受像の成功は、その後の高精細な電子式テレビの時代を切り拓く重要な足がかりとなり、ジョン・ロジー・ベアードによる動く映像の世界初生中継は、テレビジョンがメディアとして持つ可能性を世に示しました。これらの先駆者たちの努力と成果が、現代の豊かな映像メディア環境が生まれるための礎を築いたと言えるでしょう。

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