い

「い」について

「い」は、日本語の音節の一つであり、仮名文字の一つです。1モーラを形成し、五十音図では第1行第2段（あ行い段）に位置します。現代仮名遣いでは、第8行第2段（や行い段）を空欄としない場合、そこに再出します。また、現代仮名遣いでは使用しない、第10行第2段（わ行い段）の「ゐ」は置き換えられることがあり、その場合にも再び現れます。

文字の由来

平仮名の「い」は、漢字の「以」の草体から、片仮名の「イ」は、漢字の「伊」の偏から取られたとされています。

音韻

現代標準語における「い」の音韻は、五母音の一つである/i/です。これは、前舌狭母音に近く、舌の前の方を高く盛り上げて響きを作ります。口はあまり開けずに発音されます。
国際音声記号では、日本語の五十音の「い」段音が全て硬口蓋化しているのに準じて、「い」も硬口蓋接近音[j]とみなされることがあります。しかし、「い」は前舌部が低く、中舌よりの部分が高く盛り上がるため、厳密には硬口蓋化はしていません。したがって、「い」は非円唇前舌狭母音[i]と分類されます。ただし、「シ」「チ」「ジ」の母音「い」は、やや中舌化する傾向があります。

日本語における「い」

- 五十音順：第2位。「あ」の次、「う」の前。
- いろは順：第1位。「ろ」の前。
- 平仮名の字形：「以」の草体。
- 片仮名の字形：「伊」の偏の変化。
- ローマ字：i
- 点字：省略
- 通話表：「いろはのイ」
- モールス符号：・－
- 手旗信号：3→2

発音に関する事項

え段の後に「い」が置かれた場合、え段の長音として発音されることが多いです。『現代仮名遣い』では、「エ列の長音として発音されるか、エイ、ケイなどのように発音されるかにかかわらず、エ列の仮名に『い』を添えて書く」と定められています。

例：

- 時計（とけい）→ トケイ / トケー
- 丁寧（ていねい）→ テイネイ / テーネー

ただし、これには地方差や個人差が大きく、普段「エー」と発音する人でも、ゆっくりした発音では「エイ」となることがあります。楽曲では「エイ」と発音されることが多いです。魚の「エイ」や「イ音便」（例：「稼いで」）は、長音にならないことが多いです。

その他の用法

- いろは順の最初であることから、「最初」を表す言葉として「いの一番」という表現があります。
- 音楽の音名では、「ラ」の音（A）を表します。
- 日本の鉄道車両において、かつて「イ」は一等車を表す記号でした（上等から順に「イ」「ロ」「ハ」）。1960年に旅客車が二等級に再編されたことで、この記号は使用されなくなりましたが、後に登場した特別な臨時列車用車両「ななつ星 in 九州」や「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」では再び使われています。
- 日本で初めてテレビ受像機（ブラウン管）に映し出された文字は、片仮名の「イ」です。

小書きの「イ」

「ウィ」「ヴィ」「クィ」「グィ」「スィ」「ズィ」「ツィ」「フィ」「ティ」「ディ」などのように、小さく書いた「イ」をう段の仮名または「テ」「デ」の後に書いた場合、拗音と同じように直前の文字と合わせて一つの音を構成します。つまり、前の文字と合わせて1モーラを形成します。基本的に、前の文字の母音をなくして子音だけにするか、母音を半母音化して、それに/i/を合わせた硬口蓋化しない「い段」の音を表します。

ただし、語彙によっては、「イ」が小さく書いてあっても、「イ」単独で一つの音を構成することがあります。

例：

- ウィット（→ウイット）
- エクィティ（→エクイティー）
- スィート（→スイート）
- フィルム（→フイルム）
- エンターティナー（→エンターテイナー）

語末の「ティ」「ディ」「ウィ」「ヴィ」「ツィ」「フィ」などは、長音化して2モーラで発音されることが多いです。

例：

- アイデンティティ（→アイデンティティー）
- レディ（→レディー）

俗に、い段の仮名の後に「ぃ」が使われることがあり、この場合は大書きしたのと同様に長音となり、単独で1モーラを構成します。「イ」の後に「エ」の文字を小さく書いた「イェ」は、「イ」が[j]の音となり、小さく書いた「エ」と合わせて1モーラが構成されます。

歴史的仮名遣い

歴史的仮名遣いにおける「ゐ」および語中・語尾の「ひ」（イと発音するもの）は、現代仮名遣いでは「い」と書くことになっています。

その他

- 片仮名の「イ」は、漢字の部首である人偏とほぼ同形です。
- 古い強意の助詞に「い」がありました。
- 日本語の存在動詞において、「～いる」「～いない」「～います」などを使うところを、「～る」「～ない」「～ます」とすることを「い抜き言葉」といいます。

い