1933年の日本公開映画

1933年に日本で公開された映画作品

はじめに

1933年（昭和8年）は、世界的にトーキー（発声映画）への移行が進み、映画産業が技術的・芸術的に大きな変革期を迎える中、日本においても国内外の多種多様な作品が商業公開された活気に満ちた一年でした。本項では、この年に日本国内で劇場公開された主要な映画作品について、その公開記録から読み取れる情報をもとに解説します。公開された作品群は、当時の社会情勢や文化的嗜好、そして国際的な映画交流の状況を反映しており、当時の日本の映画界の様相を知る上で貴重な手がかりとなります。

公開作品の概観

1933年1月1日から12月31日までの間に日本で商業公開された映画の記録は、その年の映画界の全体像を把握するための重要な資料です。提供された公開作品リストには、各作品の劇場公開された月日、正式名称、そしてその製作国が記されています。加えて、当時の日本の主要な映画雑誌であり、批評的権威を持っていた『キネマ旬報』が毎年選出する年間ベストテンにランクインした作品については、外国映画部門および日本映画部門それぞれの順位が付記されており、当時の観客や批評家から特に高く評価された作品群を知る手がかりとなります。この年のリストを見ると、公開された作品の圧倒的多数をアメリカ映画が占める一方で、ドイツやフランスといったヨーロッパ各国の重要な作品、そして日本の優れた国産映画が多数公開されていたことが明確に見て取れます。月ごとに様々なジャンルや製作国の作品がバランス良く公開されており、当時の日本の映画ファンが多様な選択肢を持っていたことがうかがえます。

注目の外国映画

この年に公開された外国映画の中で、特に当時の日本において高い評価を得たのは、『キネマ旬報』ベストテンに選ばれた作品群です。ドイツ映画『制服の処女』は、厳格な女子寄宿学校を舞台に、抑圧された環境下での少女たちの繊細な心理や感情を描き、その革新的な表現方法とテーマ性が評価され、外国映画の年間ベストテン第1位に輝きました。フランス映画からは、ルネ・クレール監督による軽妙洒脱なミュージカルコメディ『巴里祭』が第2位にランクインし、パリの街並みを背景にした都会的なセンスで多くの観客を魅了しました。

アメリカ映画もまた、多数の秀作がランクインしています。ハワード・ホークス監督のギャング映画の古典として名高い『犯罪都市』は第3位に入り、その迫力ある描写が話題となりました。都市生活の日常風景を捉えたキング・ヴィダー監督の『街の風景』が第5位、列車内での緊迫したドラマを描いた『極楽特急』が第9位に選ばれています。さらに、社会的なテーマを扱った『仮面の米国』と、文芸作品の映画化である『シナラ』がそれぞれ第6位と第8位に、アーネスト・ヘミングウェイの小説を映画化した『戦場よさらば』も第6位タイにランクインしました。

この年の公開リストには、特撮技術を駆使した伝説的な怪獣映画『キング・コング』、グレタ・ガルボ主演のメロドラマ『スザン・レノックス』、フランク・ボーゼージ監督の『心の青空』、また、ブロードウェイミュージカルの映画化である『四十二番街』や『ゴールド・ディガース』といった華やかな作品群、サスペンスフルな『魔の家』、そして、ドイツ映画『夢みる唇』や『モナ・リザの失踪』、さらには黎明期の怪奇映画として名高い『ミイラ再生』など、アクション、サスペンス、コメディ、ミュージカル、ホラー、文芸作品といった非常に多岐にわたるジャンルの外国映画が含まれており、当時の日本の観客が、世界の映画表現の最前線に触れる機会が豊富にあったことを示しています。

注目の日本映画

1933年は、日本映画が独自の発展を遂げ、芸術的にも優れた作品を数多く生み出した年でもあります。この年の『キネマ旬報』日本映画ベストテンは、その充実ぶりを明確に示しています。

日本映画の年間ベストテン第1位に輝いたのは、小津安二郎監督の傑作『出来ごころ』です。下町に暮らす貧しい父と息子、そして彼らを取り巻く人々の日常を、ユーモアとペーソスを交えて温かくも切なく描き出し、批評家からも観客からも絶賛されました。溝口健二監督の『瀧の白糸』は第2位に、成瀬巳喜男監督の『夜ごとの夢』は第3位にランクインしており、日本映画を代表する巨匠たちがこの時期に円熟期を迎えていたことがうかがえます。

その他のベストテン入り作品を見ると、小津安二郎監督によるもう一本の作品『君と別れて』（第4位）、同じく小津監督で同月に公開された『非常線の女』、溝口健二監督による『二つ燈籠』（第4位タイ）、時代劇の巨匠・伊藤大輔監督による大作時代劇シリーズの第一作『丹下左膳　第一篇』（第6位）、稲垣浩監督の傑作短編時代劇『盤嶽の一生』（第7位）、そして、人気の時代劇シリーズ『鼠小僧次郎吉 前篇 江戸の巻』（第8位）などが挙げられます。また、川端康成の著名な小説を映画化した『伊豆の踊子』、剣戟時代劇『堀田隼人』、そして歌謡曲を題材にした『鯉名の銀平』といった作品もベストテン（いずれも第9位）に選出されており、現代劇、時代劇、文芸作品、大衆娯楽作品に至るまで、日本映画がジャンルを問わず高い水準にあったことがわかります。

まとめ

1933年に日本で商業公開された映画作品のリストは、この年の映画界が国内外の優れた作品で溢れ、極めて活気に満ちていたことを伝える貴重な記録と言えます。ハリウッド黄金期を牽引するアメリカ映画の量と質、芸術性の高いドイツやフランスなどのヨーロッパ映画の重要作、そして小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男といった巨匠たちが傑作を生み出した日本映画が共存し、当時の日本の映画ファンに非常に豊かで多様な鑑賞機会を提供しました。キネマ旬報ベストテンに選ばれた作品の多くは、それぞれの国の映画史においても重要な位置を占めるものであり、1933年が世界の映画にとって実り多い年であったことを改めて示しています。この年の公開リストは、当時の映画産業の国際的な繋がり、日本の映画文化の受容状況、そしてそれぞれの時代の感性を研究する上で、今なお重要な一次資料としての価値を持っています。この一覧は、当時の公開記録や信頼できる研究文献に基づいています。

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