1939年のル・マン24時間レース

1939年ル・マン24時間レース：戦前の最後の輝き

1939年6月17日から18日にかけて、フランスのサルト・サーキットで開催されたル・マン24時間レースは、第二次世界大戦の影が忍び寄る中、戦前の最後の大会となりました。16回目の開催となるこのレースには、42台のレーシングカーがエントリー。フランス車がその主役を担う構図は、この年も変わらなかったと言えるでしょう。

激しい戦いを経て、完走を果たしたのは20台。その中で栄光の優勝を掴んだのは、ジャン＝ピエール・ウィミーユとピエール・ヴェイロン組のブガッティ・タイプ57Cでした。彼らは24時間で3354.760kmを走り抜き、平均速度139.781km/hという驚異的な記録で優勝を飾りました。ブガッティの圧倒的な速さと信頼性が、この激戦を制した要因と言えるでしょう。

一方、イギリスの名門メーカーであるラゴンダもこのレースに参戦。優勝を狙って挑んだ彼らの奮闘は、3位と4位という素晴らしい成績に繋がりました。もしも戦争が勃発していなければ、さらなる活躍を見せていた可能性もあったでしょう。

このレースは、フランス車の強さ、そしてブガッティの技術力の高さを改めて証明する結果となりました。しかし、同時にこの輝かしい勝利は、長く続くレースの歴史における、ひとつの区切りを意味していたのです。

2ヶ月後の1939年9月、ドイツによるポーランド侵攻により第二次世界大戦が勃発。ヨーロッパは戦火に包まれ、ル・マン24時間レースは10年間、開催されることはありませんでした。この1939年のレースは、長く続いた平和な時代における、最後のル・マン24時間レースとして、そして戦前のモータースポーツ黄金期の終焉を象徴する大会として、記憶に刻まれています。

このレースの意義を理解するためには、当時の国際情勢を理解することが不可欠です。世界的な緊張が高まる中、開催されたこのレースは、人々にわずかながら希望と興奮を与えたと言えるでしょう。しかし、その希望は長くは続かず、まもなく世界は再び大きな戦争へと突入することになります。

1939年ル・マン24時間レースは、単なるモータースポーツのイベントではなく、歴史の転換期を象徴する出来事として、今もなお人々の記憶に刻まれているのです。

参考文献

『ルマン 伝統と日本チームの戦い』グランプリ出版 ISBN 4-87687-161-2
ドミニク・パスカル著、日沖宗弘訳『ル・マンの英国車』ネコ・パブリッシング ISBN 4-87366-068-8
* 黒井尚志『ル・マン 偉大なる草レースの挑戦者たち』集英社 ISBN 4-08-780158-6

もう一度検索