1948年のチェコスロバキア政変

1948年2月、チェコスロバキアを舞台に、東西冷戦の激化を象徴する歴史的事件が発生しました。この「二月事件」あるいは「1948年のチェコスロバキア政変」と呼ばれる出来事は、共産党による政権掌握という結果に帰結し、世界情勢に大きな影響を与えました。

第二次世界大戦後、チェコスロバキアではソ連の影響力が着実に増大していました。1946年の選挙で、共産党が第一党となり、クレメント・ゴットワルトを首班とする連立政権が成立しました。しかし、この政権は共産党が内務省などの要職を掌握し、国有化を進めるなど、共産化への道を着々と進めていました。

国際情勢もチェコスロバキアの国内政治に大きな影響を与えました。アメリカとソ連の対立、すなわち冷戦の深化は、隣国ポーランドやハンガリーにおける共産党の一党体制樹立という現実を突きつけました。チェコスロバキアにおいても、共産党と非共産系政党の対立は深刻化していきました。1947年のマーシャル・プラン参加問題では、ソ連の圧力によって参加が撤回されたことが、国民の間に大きな失望と混乱を生みました。

1947年から1948年にかけて、閣内や議会での共産党と非共産系政党の対立は激化の一途を辿りました。共産党出身の内務大臣ヴァーツラフ・ノセクによる非共産党員警察官の追放劇は、その象徴的な出来事でした。非共産系閣僚による批判は、ゴットワルトによる武力行使を示唆する発言によって封じ込められました。

1948年2月22日、ノセク内相の独断専行的な行動に対し、12名の非共産系閣僚が抗議の辞表を提出しました。彼らは大統領エドヴァルド・ベネシュが辞表を受理せず、閣内に留まるよう指示すると予想していました。ベネシュ自身も当初は非共産系を含まない新内閣の発足を望んでいませんでした。

しかし、状況は急速に変化しました。全国で共産党主導の示威行動が活発化し、ソ連大使のプラハ入りによってソ連の介入が現実味を帯びてきました。さらに、ゴットワルトによる全国ゼネストの呼びかけは、大きな政治的圧力となりました。

こうした圧力を受け、ベネシュ大統領は2月25日、最終的に非共産系閣僚の辞表を受理しました。そして、共産党と親モスクワ派の社会民主党による新政権を指名しました。この新政権には、唯一の非共産系閣僚として建国の父トーマス・マサリクの息子ヤン・マサリクが入閣しましたが、彼は同年3月10日に死亡しました。自殺と発表されましたが、暗殺説も根強く囁かれています。

5月9日には、人民民主主義を謳う新憲法が採択され、30日に行われた総選挙では、共産党とその衛星政党からなる国民戦線が89.2％もの得票を獲得しました。この結果を受け、6月2日、ベネシュ大統領は辞任しました。

チェコスロバキアにおける共産党の政権掌握は、西側諸国に衝撃を与えました。チェコスロバキアは、東欧諸国において唯一の工業国であり、軍需産業も盛んでした。その喪失は西側にとって大きな打撃となりました。この出来事を契機に、西側諸国は安全保障体制の強化を急ぎ、ブリュッセル条約、そして1949年の北大西洋条約機構（NATO）の設立へと繋がっていったのです。東西冷戦構造の確立、そしてその後の東欧革命まで、この「二月事件」は大きな影を落としていました。

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