人民民主主義

人民民主主義：共産党主導の複数政党制

人民民主主義とは、社会主義国の政治体制の一形態です。一見、複数政党制を採る民主主義のように見えますが、共産党が指導的地位を占め、実質的には一党支配が行われる点が大きな特徴です。ソビエト連邦のような共産党による一党独裁制とは異なり、人民戦線方式を反映した複数政党制を採用している点が挙げられます。第二次世界大戦後の東欧諸国や、中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国などがその例として挙げられます。

マルクス主義では、資本主義から共産主義への移行期には、労働者階級によるプロレタリア独裁が必要とされます。レーニンは、労働者階級の利益は単一の前衛党（共産党）によって代表されると主張しました。そのため、ソ連では共産党による一党独裁制が敷かれましたが、戦間期から第二次世界大戦後にかけて、共産党は反ファシズムや反[[帝国主義]]を掲げ、他の勢力と共同戦線を張る機会が増えました。

人民民主主義はこのような歴史的文脈から生まれた体制です。共産党以外の民族主義政党、農民政党、社会民主主義政党、宗教政党など、様々な政党が議会に存在するものの、共産党の指導の下に政治が運営され、野党は存在せず、政権交代は起こりません。これは「ヘゲモニー政党制」と呼ばれます。

選挙と議会：形式的な民主主義

人民民主主義国における選挙は、形式的なものでした。例えば、旧東ドイツでは、議席配分が予め決められたリストに対する賛成・反対の投票のみが行われ、実質的な議席数の変動はありませんでした。議会も、共産党の意向を反映した政策決定を行う場として機能していました。

主要な人民民主主義国

中華人民共和国: 憲法では「人民民主独裁」と規定され、中国[[共産党]]が指導的地位を占めます。建国当初は、中国[[共産党]]と諸政党が参加する全国政治協商会議が最高決議機関でしたが、その後、全国人民代表大会が最高機関となり、政治協商会議は諮問機関となりました。百花斉放の時期には民主諸党派の活動が見られましたが、反右派闘争以降は低調です。現在では、民主諸党派の主要幹部は共産党との二重党籍を有することが多いです。

朝鮮民主主義人民共和国: 憲法では「人民民主主義独裁」を明記し、朝鮮労働党が絶対的な支配権を握っています。朝鮮社会民主党、天道教青友党などが存在しますが、いずれも朝鮮労働党の衛星政党であり、実質的には一党独裁制です。

ラオス人民民主共和国: ラオス人民革命党の一党制ですが、憲法の前文に「人民民主主義」を謳っています。

過去の人民民主主義国

東欧諸国（チェコスロバキア、ドイツ民主共和国、ハンガリー人民共和国、ブルガリア人民共和国、ベトナム民主共和国、ポーランド人民共和国、ユーゴスラビア連邦人民共和国、ルーマニア人民共和国）では、共産党の指導の下、人民民主主義体制が敷かれていましたが、1980年代末から1990年代初頭にかけて、相次いで体制が崩壊しました。これらの国々では、指導政党と諸政党が統一名簿を作成し、その信任投票が行われるという選挙制度が一般的でした。