1951年の日本の女性史

1951年（昭和26年）は、戦後日本の復興が進む一方で、冷戦構造の激化や講和条約締結という大きな節目を迎えた年でした。この激動期にあって、日本の女性たちは平和の希求、生活の安定、労働者の権利確立、そして社会参加の拡大を目指し、多様な活動を展開しました。

年明け早々、平和への強い願いが表明されます。1月には、婦人民主クラブをはじめとする女性団体が連名で、アメリカのトルーマン大統領、イギリスのアトリー首相、ソ連のスターリン書記長、インドのネルー首相、国連のリー事務総長など各国元首に対し、第三次世界大戦の阻止や原子爆弾使用への反対、世界平和への努力を求める請願書を送付しました。同年2月には、平塚らいてう、ガントレット恒子ら著名な女性たちが、来日したダレス特使に講和に関する日本女性の希望条項を手渡し、日本の将来のあり方について意思表示を行っています。日教組婦人部は「子どもを戦場に送るな」運動を開始し、平和運動の中心に立つことを確認しました。国際婦人デーの中央準備会では、戦争反対と全面講和を主要スローガンに掲げ、東京での講和投票目標を30万票と設定するなど、具体的な平和運動が呼びかけられました。しかし、3月8日の国際婦人デー中央大会は屋外開催を禁止されるなど、活動への制約もありました。

講和条約締結が近づく中で、再軍備の議論も高まりました。芦田均元首相の再軍備に関する発言に対して、女性団体が即座に抗議するなど、戦争の悲劇を経験した女性たちの間には根強い反対論がありました。9月8日に単独講和条約が締結され、日本は国際社会に復帰しましたが、多くの残留婦人・孤児が取り残されたことは、その後の長い間の課題となりました。年末には平塚らいてう、市川房枝らを発起人とする「再軍備反対婦人委員会」が結成されるなど、平和と非武装国家日本の維持を求める女性たちの声は継続的に上がりました。

生活問題も女性たちの重要な活動分野でした。食糧配給公団解体に伴う米の値上げや、電気料金の値上げは家計に直接打撃を与え、関西主婦連をはじめとする主婦たちが反対運動を展開しました。聴聞会での反対意見表明、陳情、街頭署名に加え、関西では牛車デモというユニークな行動も行われました。8月には主婦連や生協婦人部などが「物価値上反対協議会」を結成し、「家計にも平和を」をスローガンに、電力料金値上げ反対運動などと連携して活動しました。また、主婦連は人工着色料オーラミンの使用禁止を要望するなど、消費者の安全確保にも関心を寄せました。

労働環境の改善と権利擁護も大きな課題でした。2月には財団法人「婦人労働協会」が発足し、婦人労働の研究や、傷病者・未亡人のための共同作業部、婦人労働会館設立などを目標としました。この年は、生理休暇の廃止が政令諮問委員会や日経連で検討されるという動きに対し、労働組合婦人部などが強く反発し、「生理休暇取上反対懇談会」を結成するなど、獲得した権利を守るための闘いが行われました。個別の職場でも労働争議が発生しました。10月には銀座の喫茶店不二コロンバンの女子従業員が労働組合を結成し、不当解雇と闘って職場復帰を勝ち取りました。特に年末の三越争議は社会に大きな衝撃を与えました。従業員の65%が女性を占める老舗百貨店で、賃上げ要求に端を発した争議が、生理休暇が取りにくいといった伝統的な抑圧への不満も加わって大規模化しました。年末の繁忙期に、女子店員たちがピケッティングに立ち、警官隊導入により多くの負傷者が出ましたが、最終的には組合側の勝利となりました。それまで「店頭の花」と見なされていた女子店員たちの果敢な闘う姿は、多くの人々の目に焼き付いたといわれています。

政治への参加も進みました。4月には第2回地方統一選挙が実施され、多くの女性が立候補し当選しました。国会では、戸叶里子議員や田島ひで議員が吉田首相に対して平和問題や生活改善問題などを質問しましたが、これに対し男性議員から女性議員の質問を軽視する発言が出るなど、政治分野における性別による偏見も依然として存在しました。しかし、政治参加への意欲は高まり、大阪では女性市町村議会議員らが「婦人政治教育研究会」を結成しています。行政組織では、婦人少年局の廃止が検討されるという動きに対し、労働組合や女性団体、著名人が反対運動を展開し、その存続が決定されました。9月には東京都下の女性団体と労働組合婦人部が合流した「婦人団体連合会（婦団連）」が発足し、電気料金値上げ反対運動などに取り組むなど、女性たちの組織化が進んだ年でもありました。

社会問題としては、児童福祉法の一部改正により保育所と幼稚園の区別が明確化されました。しかし、この年は深刻な人身売買の激増が問題となりました。厚生省の推定では1年間で約5000人が売られ、そのほとんどが特飲店（特殊飲食店）へ送られて売春に従事させられたとされます。これに対し、11月には日本キリスト教婦人矯風会など80団体が「公娼復活反対協議会」を結成するなど、女性の尊厳に関わる問題への取り組みも行われました。

社会文化面では、ビヤホールの女性客が増えたり、ファッションモデルが専業化したりするなど、女性のライフスタイルや職業の多様化が見られました。主婦連のデモではしゃもじがプラカード代わりに使われるようになり、団体のトレードマークとなりました。一方で、少年刑法犯や家出の激増といった戦後の社会のひずみも現れていました。

1951年は、講和条約締結という歴史的な転換点を迎え、平和と再軍備の間で揺れる中で、女性たちが主体的に社会課題に向き合い、様々な分野で連帯し、権利擁護と生活向上、そして平和の実現を目指して精力的に活動した一年でした。これらの活動は、その後の日本の女性運動の基礎を形成する上で重要な礎となったといえる重要な基礎となりました。

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