1954年ドイツグランプリ

1954年8月1日、ドイツグランプリがニュルブルクリンクで開催されました。これは1954年のF1世界選手権シリーズの第6戦目であり、1926年の初開催から数えて17回目のドイツグランプリ、そしてニュルブルクリンクでは16回目の開催となりました。このレースには「ヨーロッパグランプリ」の称号が与えられていました。

レースは、前年よりも4周多い22周で行われ、総距離は500kmを超える長丁場となりました。メルセデス・ベンツチームは、イギリスGPでの敗退を受けて、新型のオープンホイール仕様のW196マシンを投入しました。ファン・マヌエル・ファンジオ、カール・クリングに加え、スポット参戦のヘルマン・ラングが新型マシンを駆り、ハンス・ヘルマンは従来型のストリームライン仕様のW196を使用しました。

しかし、予選で悲劇が起きます。マセラティのオノフレ・マリモンがクラッシュし、死亡するという事故が発生しました。この事故の影響で、マリモンのチームメイトであるルイジ・ヴィッロレージと、オーウェン・レーシング・オーガニゼーションのケン・ウォートンはレースへの参加を取りやめることになりました。特に、マリモンと同じアルゼンチン出身のドライバーたち、ファンジオ、ホセ・フロイラン・ゴンザレス、ロベルト・ミエレスは、この事故に大きなショックを受けました。これはF1世界選手権が始まって以来初の死亡事故という、暗い歴史を刻むことになりました。

決勝レースは、ゴンザレスがスタートダッシュでトップに立ちますが、すぐにファンジオがかわしてトップに躍り出ます。スターリング・モスが一時3位につけていましたが、マシントラブルで脱落。ゴンザレスも順位を下げていき、メルセデスのラングが2位、クリングが3位に浮上する展開となりました。しかしラングは、久しぶりにグランプリに参加したこともあり、コースアウトしてリタイアしてしまいます。マリモンの事故の影響もあり、戦意を失ったゴンザレスは、すでにリタイアしていたマイク・ホーソーンと交代します。

クリングは猛烈な勢いでファンジオを追いかけ、15周目にはチーム監督であるアルフレート・ノイバウアーの指示を無視してトップに立ちます。しかし、この行動に対してノイバウアーはクリングにピットストップを命じ、結果的に4位に順位を落としました。最終的に、3時間45分45.8秒という長時間に渡るレースを制したのはファンジオでした。彼は後年、このレースについて「最初から最後までずっとマリモンと一緒に走っている気分だった」と語っています。このレースは、勝利の喜びとともに、大きな悲しみも抱えた、記憶に残るものとなりました。ファンジオの優勝、フェラーリのゴンザレス／ホーソーン組の2位、そしてモーリス・トランティニアンの3位という結果で幕を閉じました。

このレースは、F1の歴史において、技術革新と悲劇が交錯した象徴的なレースとして、今も語り継がれています。

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