1955年のテレビ (日本)

1955年、テレビが拓く新時代

昭和30年、1955年は日本のテレビジョン放送にとって、基盤が固まり、本格的な普及が始まった極めて重要な一年でした。テレビ受像機の契約数は着実に増加し、春には5万件、秋には10万件の大台を突破するなど、テレビは国民にとって次第に身近な存在へと変化していきました。

民放テレビの新たな風：KRテレビ開局

この年のハイライトの一つは、4月1日にラジオ東京（後の東京放送、現在のTBSテレビ）がテレビジョン放送を開始したことです。これは日本の民間放送において初のテレビ・ラジオ兼営局の誕生であり、NHKに続く新たな放送局の登場は、テレビ界に競争と活気をもたらしました。ラジオ東京テレビは、当時の新聞テレビ欄表記などから「KRテレビ」あるいは「ラジオ東京テレビ」の愛称で親しまれました。開局初日には記念式典や公開生放送の『グランド・テレビ・パレード』を実施。また、自社制作のニュース番組『東京テレニュース』の放送を開始するなど、独自の番組編成を展開しました。さらに、受信契約数がまだ少なかったこの時代に、多くの人々が無料でテレビを視聴できるよう、街頭テレビの設置を積極的に進めたことも特筆されます。

KRテレビはスポーツ中継にも力を入れ、プロボクシングや大相撲の中継を開始したほか、大阪球場からのプロ野球オールスター戦中継で初の長距離中継を実現しました。ドラマ分野では、長谷川町子原作の人気漫画『サザエさん』を初めてテレビドラマ化し、平日夕方の帯番組として放送開始するなど、後の定番となる番組の礎を築きました。

NHKの深化と技術革新

一方、公共放送であるNHKもこの年、放送開始30周年を迎えました。記念事業として、3月には初代NHKホールが東京放送会館に隣接して完成し、番組の公開収録などに活用されるようになりました。これは後の代々木公園に移転した現在のNHKホール（2代目）につながる重要な施設でした。

技術面では、NHK放送技術研究所（NHK技研）が開発した携帯可能なハンディーカメラや、国産イメージオルシコン撮像管を採用したテレビカメラが実用段階に入り、番組制作の機動性や映像品質の向上に貢献しました。また、夏にはテロップ装置の使用を開始し、情報の伝達手段が拡充されました。さらに、NHK技研ではカラーテレビ受信機の試作品が完成しており、将来の色鮮やかな放送への技術的な準備が進められていました。地方の放送設備も拡充され、名古屋放送会館が運用を開始しています。

社会を映し出す番組とジャンルの拡大

1955年のテレビは、社会の動きをリアルタイムで伝えるメディアとしての役割も深めました。NHKと日本テレビは初の共同制作として、皇居広庭からの新年参賀風景を中継しました。また、政治の大きな動きとしては、左右両社会党の再統一大会や、保守勢力の結集による自由民主党の結成大会などがNHKによって中継され、国民が政治の重要な局面に立ち会う機会を提供しました。日本テレビは衆議院議員総選挙で初の開票速報を放送しました。災害発生時には、奄美大島大火の取材フィルムを空輸して速報するなど、報道機能の強化も図られました。

番組ジャンルも多様化しました。NHKでは、視聴者の秘密を当てる長寿クイズ番組『私の秘密』が始まり、日本の映画会社との契約に基づき封切から一定期間を経た映画を放送する『テレビ映画劇場』がロードショー映画番組の先駆けとなりました。KRテレビでは、弁護士が難事件を解決する探偵ドラマ『日真名氏飛び出す』が人気を集めました。

年末には、NHKの『NHK紅白歌合戦』、KRテレビの『オールスター歌合戦』といった音楽特番がそれぞれ放送されました。そして、NHKとKRテレビが共に『ゆく年くる年』の放送を開始したことは、後の大晦日の定番番組が生まれた瞬間であり、テレビが年末の風物詩を創り出すようになる第一歩となりました。

この他にも、スポーツ（日本体育祭、デビスカップ、国体水泳競技など）や海外の文化交流（シンフォニー・オブ・ジ・エア公演中継）など、様々な分野の番組が制作・放送され、テレビの表現力と可能性が探求されました。特に、NHKのドラマ『追跡』が文化庁芸術祭賞をテレビドラマ番組として初めて受賞したことは、ドラマ制作の質的な向上を示す出来事でした。

まとめ

1955年は、ラジオ東京テレビの開局による民放ネットワークの拡大、NHKの技術革新と施設整備、そしてニュース、スポーツ、ドラマ、娯楽番組に至るまで、番組内容が質・量ともに充実した一年でした。テレビ受像契約数の顕著な増加と共に、テレビ放送は日本の社会に深く根を下ろし始め、国民生活に欠かせないメディアとしての確固たる地位を築くための重要な飛躍を遂げたのです。

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