1956年の日本の女性史

1956年（昭和31年）は、日本の女性たちが労働環境、社会参加、福祉、そして国際的な連携など、様々な分野で自らの権利を主張し、新たな動きを生み出した重要な一年でした。

年明け早々、職場における女性の権利擁護の動きが見られました。大阪府では、公務員労働組合の女性たちが妊娠中の体調不良に対応するための休暇制度を要求。また、東京都のいわゆる赤線地帯で働く女性たちも労働組合を結成し、生活の安定を訴えながら、当時議論されていた売春防止法の制定に反対の声を上げました。この法律を巡っては、制定を推進する市民団体が啓発活動や更生資金のための募金活動を行うなど、賛否両論が渦巻きました。

主婦層の活動も活発化しました。主婦連合会（主婦連）は、国の財政における不正支出を厳しく指摘し、政府や国会に是正を求めました。また、物価の上昇、特に牛乳の値上げに対しても反対運動を展開し、消費者の立場から社会問題に積極的に関与しました。

政治の場では、女性議員の増加と質的向上を目指す動きがあり、婦人参政権獲得10周年を記念した大会や展覧会が開催されました。しかし、教育分野では、千葉市が女性教員の新規採用抑制を発表したり、岡山県で45歳以上の女性教員に退職勧奨が行われたりするなど、女性が働き続けることへの逆風も見られました。労働省の発表によると、この年の女子労働者数は1950年度から5割増の452万人に達していましたが、賃金や労働条件には多くの課題が残されていました。働く女性の中央集会では、男性と比較して著しく低い日本の女性の賃金水準（海外の主要国と比較して最低レベルだったことが国際会議で報告されています）や、職場での不平等な慣習、深刻な託児所不足などが主要な議題となりました。

法律面では、4月1日に産前産後各6週間の休暇を保障する産休法が施行されました。また、5月24日には長年の議論を経て売春防止法が公布され、社会に大きな影響を与えました。家庭裁判所の機能強化を図る家事審判法の一部改正も行われ、慰謝料や扶養料の支払いを確保するための手続きが整備されました。しかし、憲法改正の動きの中で、戦後の民法で廃止された「家族制度」の復活を主張する声が一部で上がり、これに対して多くの女性団体が強く反対の立場を表明し、運動を展開しました。

社会福祉の分野では、新たな取り組みが見られました。深夜まで働く母親を対象とした夜間保育所が京都に開設されたほか、長野県では家庭看護婦派遣事業、いわゆるホームヘルパーサービスが全国に先駆けて始まりました。また、都市部では未亡人などの就業支援として家政婦養成のための職業補導所が設置されました。

女性たちの運動は多岐にわたりました。部落解放を目指す女性たちが独自の全国大会を開催し、母親たちは「生命を生み育て守る権利」を共通のスローガンに掲げ、第2回日本母親大会に結集しました。この母親大会の参加者が警察に調査されたことが問題視される一幕もありました。また、冷害に苦しむ北海道の農村部で娘の身売りが発生した際には、娘たちの救済を求める街頭募金活動が行われました。さらに、静岡県の缶詰工場で女子調理工の初任給が業者間で協定されたことは、後の最低賃金法制定に向けた動きに繋がったと言われています。

国際的な交流も活発でした。原水爆実験の中止を訴える国際常設母親委員会に日本代表が参加したほか、ブダペストで開かれた世界婦人労働者会議では、日本の女性労働者の厳しい労働条件が報告されました。モスクワでの国連婦人の地位委員会婦人ゼミナールや、伊豆でのアジア婦人会議などにも日本の女性代表が参加し、国際的な視野を広げ、連帯を深めました。

この年、新潟県で初の家事サービス職業補導所が開設されたり、東京都で妊娠障害休暇が産休の枠内で認められたりするなど、具体的な労働環境の改善に向けた一歩も記されました。しかし、一方で千葉市などでの女性教員採用抑制や、バス車掌の不足金弁償制度（圧倒的に女性が多かった）といった問題も存在しました。後者の問題については、静岡鉄道バスや川崎鶴見臨港バスで制度が廃止される動きも見られました。

メディアや文化の面でも変化がありました。婦人雑誌『主婦の友』が判型を大きくして大衆化の傾向を示し、テレビでは料理番組が初めて登場しました。健康分野では、英国の研究者アリス・スチュアートが、妊娠中の放射線被曝が子どもの白血病リスクを高めるという重要な研究結果を発表し、当時常識とされていた少量の放射線は安全という見解に警鐘を鳴らしました。

1956年は、法制度の整備、社会福祉の萌芽、そして何よりも多様な立場にある女性たちの自発的で粘り強い活動を通じて、日本の女性を取り巻く環境が変化し、権利向上や新たな社会への参画に向けた土壌が培われた、記憶すべき一年であったと言えるでしょう。

もう一度検索