1958年のインディ500

1958年5月30日、インディアナポリス・モーター・スピードウェイで開催された第42回インディ500は、その歴史に暗い影を落とす悲劇的な事故によって記憶されています。このレースは、当時F1世界選手権の1戦として開催されており、世界中のモータースポーツファンの注目を集めていました。

レースは、ディック・ラスマン、エド・エリシアン、ジミー・リースの3名がフロントローからスタートする展開で幕を開けました。しかし、運命の歯車は第1ラップから狂い始めます。ターン3でエリシアンがスピンし、ラスマンと接触。この2台の車がコース脇の壁に衝突し、まるで磁石に引き寄せられるように15台ものマシンがその場に次々と突っ込んでいく、凄惨な多重クラッシュが発生したのです。

この事故で、当時人気絶頂にあったドライバー、パット・オコナーが命を落としました。A.J.フォイトの証言によると、オコナーのマシンはリースのマシンに衝突し、約15メートルもの高さに投げ出されて逆さまになり、炎上したとのことです。オコナーは焼死しましたが、医療関係者によると、頭蓋骨骨折による即死だった可能性が高いとされています。前年のインディ500で8位に入賞し、レースをリードするであろうとスポーツ・イラストレイテッド誌の表紙を飾っていただけに、その死は世界中に衝撃を与えました。

事故の責任は、スピンを起こしたエリシアンに問われ、彼はUSAC（アメリカ合衆国自動車クラブ）から資格停止処分を受けました。数日後に処分は解除されましたが、多くの関係者からは冷たい視線を向けられることとなりました。

この悲劇的な事故を受けて、レース関係者は安全対策の抜本的な見直しを余儀なくされました。まず、レース開始時の手順が変更され、1957年と1958年に使用されていたピットレーンの下側の一列の使用が停止されました。そして、翌1959年からは、ドライバーの頭部を保護するための金属製ロールバーの装着が義務化されました。さらに、ヘルメットはスピードウェイの医療関係者による安全基準検査に合格したものでなければ使用できないようになりました。これらの対策は、ドライバーの安全を確保するための大きな一歩となりました。

この年のインディ500には、前年のF1世界チャンピオン、ファン・マヌエル・ファンジオがエントリーしていました。しかし、彼は予選セッションで満足できるタイムを記録することができず、予選落ちという結果に終わりました。このレースが、後に引退するファンジオにとって、インディ500への最初で最後の挑戦となりました。

決勝レースは、第1ラップの大惨事の影を背負ったまま、静かに幕を閉じました。優勝は、この悲劇を生き延びたドライバーの手に渡りました。このレースは、勝者だけでなく、事故で命を落としたオコナー、そしてレースに携わった全ての人々に深い傷痕を残しました。それは、モータースポーツの歴史において決して忘れられることのない、痛ましい出来事として記録されています。

レース後、最速ラップはトニー・ベッテンハウゼンによって記録されました。また、このレースを最後にジョージ・アミックがインディ500から姿を消しました。彼は翌1959年、デイトナでレース中に事故死しています。1958年のインディ500は、速さだけでなく、安全の重要性を改めて認識させた、忘れられないレースとして、モータースポーツ史に刻まれています。

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